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第57話
スヤスヤと穏やかに眠っている彼を見つめる
見つめていると、様々な彼の顔を思い出し、それが頭をよぎる
優しくしてくれた彼
たすけてくれた彼
しかってくれた彼
笑った顔の彼
時々悲しそうに笑う彼
寝ている時の彼
………………なんでこんな、走馬灯みたいに思い出されるんだ…………………………
……彼は……まだ生きているのに………………
チラリと彼に視線を向ける
栄養はとっているのに動いていないせいか、いつもより細くなった腕に…………血の気のない顔………………
ずっと………………閉じたままの瞼…………
………………死んで……ないよね?………………
はやく、その瞼を開いて、綺麗な瞳を覗かせてほしい
でないと…………記憶力のないこの頭が…………彼の色々な表情を、忘れそうで………………
何年でも、目が覚めるまで待つ……と決心したはずなのに……その決心が、早くも鈍りそうだ………
どうして自分は待てないんだ………………
……目が覚めるまで待つべきなのに…………
朱「………………れぇい…………
おきて……目を開いてよ………………
……………………俺を見て………………
……こんな汚い俺を、受け入れてくれたの君だけなんだから………………
どうして……俺に優しくしてくれたの?
前に……聞こえた好きだよって……どういう意味…?………………
はやく…………おきて…………………………」
ダメだとわかっている…………けれど、我慢できなくなった俺は………………
そっと玲に顔を寄せ、青白くなっている薄い唇にキスをする…………
……あぁ、暖かい………………
……………まだ……いきてる………………
その唇から伝わるぬくもりに……涙が溢れて止まらない………………
朱「ふ……っく………………ふふ………………っひく…
………れぇい……すき…………だいすき…………
っふぅ………………ぁぁぁっ…………」
生きている……まだ……命がある………………
彼は……まだ戦っている…………ここに帰ってくるために…………怪我と………………
なら俺も……戦わないとならない…………玲のいない寂しさと………………
早く、帰ってきて………………
…………1人で過ごすあの家は……広すぎるから………………
早く目が覚めることを祈って……もう一度、唇にキスを落とした………………
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