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第61話
Side朱雨
明『……玲、婚約者いるよ』
さっき言われたセリフが頭をこだまする
考えたくないのに…………一人で歩いている帰り道は静かで、いやでも頭に声が響く
婚約者………………いるなんて知らなかった…………
本当にいるのだろうか…………だとしたら、どうして俺と付き合ってくれと、言ったのだろうか
疑問が……頭に浮かんでは消え、浮かんでは消え、を繰り返す
とぼとぼ……とゆっくり歩みを進める
この間まで20分もかからなかった帰り道が、とてつもなく長いものに感じる
下を向き、道路のコンクリートだけを眺めて歩く
朱「…………………………あれ?ここは…………」
ぼぉっと顔を上げると、キラキラと光るネオンが目に染みる
………………いつも絶望を感じた時に逃げてきていた場所…………
玲と付き合い始めてから…………絶対くるもんかと、心に決めていた場所
…………行かないと、決めたのに………………
引き寄せられるように、足が動き出す
ごめんね………………玲………………
もう、君を……諦めさせて…………………………
冬「あれ?君、久しぶりだね」
朱「あ、おにぃさ………………」
トントン、と肩を叩かれ振り向くと
あの日、玲と付き合う原因となった彼がたっていた
彼はキョトンとした顔のまま、俺の頬をスルリと撫でる
冬「どうしたの?泣きそうな顔しちゃって」
朱「と、まさん…………俺を……抱いて…………」
冬「…………………………いいよ、おいで?」
目の前の彼に縋りたくて…………玲を忘れさせて欲しくて………………彼の腕に自分の腕を絡め、甘えた声を出す
冬馬さんは困惑しているようだった
だが、俺が顔を彼の胸に寄せると、慈愛のこもった目を俺に向けると腰を引き寄せ、近くにあったキラキラとネオンを放つホテルへと入っていった…………
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