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第69話

Side朱雨 「…………朱雨…………少しいい?」 「…………っ!あ、えっと………………」 しまった……ぼーっとしすぎた………… そう思った時にはもう遅かった……………… ここは洗面所…………明瑠くんが立っているのは唯一あるドアの前……………… どう考えても彼から逃げられない………… とうとう来た彼との会話の機会………… だが、全く嬉しくない……………… 嬉しくないどころか、失礼なことに……話しかけないで……と思ってしまう自分がいる 避けていた気まずさからなのか…………もう彼を信頼し始めているからなのか……………… あわあわと不自然に慌ててしまう これ以上、明瑠くんとの仲を深めて、傷つきたくない僕は どうしたらいい…………どうしたら、この人から逃げられる?………………と失礼なことばかり考えていた 慌てている僕の様子を見て、何かを察したのか 、明瑠くんはごめん!と叫び僕に向かって腰を折っている……………… 急に謝られた俺はどうすればいいのか分からず キョトン……と固まってしまった…… 「え、え!?どしたの!?」 「ごめん!僕のこと、嫌いなのはわかってる! でも…………話がしたい………………」 だめかな………………と言いながら、下から俺の顔を覗いてくる……………… 俺はその言葉を聞いて、訂正したい気持ちと、彼と会話をしたくない気持ちがごちゃごちゃになった………… 彼のことが嫌いなわけじゃない……けれど、好きにもなりたくない……………… だから……会話なんてしたくなかった………… 仲を深める行為だから……………… しかし、そんな…………捨てられた子犬のような顔をされてもなお避けれるほど……僕は気が強くなかった……………… 「………………わかった…………」 渋々ながら、そう返事をすると 安心したように彼が肩を落とす 「ありがとう……………… …………あのさ、リビングでもいい…かな?」 「うん、いいよ………………大丈夫」 「ありがとう…………ほんとに…………」 行こう?と彼のあとに続いてリビングへ戻る その背中に、少し違和感を覚える …………………………明瑠くん、痩せた? 久しぶりに見た彼の姿は、少し(やつ)れていて、心配になってしまう………… こんなに窶れさせたのは…………俺なのだろうか……………… そう思い、心がつきんと痛む………… 彼はなにも悪くないのに……俺の一方的な嫌悪で、彼を避けて、傷つけてしまった…… 自分の心の汚さに、絶望しそうだ……………… これからは、しっかりと明瑠くんと向き合って、彼を同室者として心から受け入れようと決めた

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