4 / 10
執着
駿助と関係を持つようになって、一颯は前よりも孤立するようになった。
もともと友達も少なく、一人でいる方が好きだったが、学校では誰とも必要最低限のことしか話さなくなった。
大人しく地味な生徒だったので、誰も一颯の変化には気付かなかった。
一颯ともよく話をしていたクラスメイトの橘も、他に友達も多くいたし、自分を避けるようになった一颯をあえて追いはしなかった。
放課後、駿助は久しぶりに友達と出かけており、一颯は珍しく一人で家に帰った。
駿助の友人達からは、一颯の方がブラコンで弟にまとわりついていると思われていた。
家に着き、一颯はため息をついて玄関の鍵を開けた。
今の時間、両親は家に居ない。駿助から解放されて、ひとりの時間に肩の力を抜いた。
───弟の執着はいつまで続くのか……
駿助がゲイだとは知らなかった。ましてや兄である自分を性的対象に見ているなんて。
高校を卒業して世界が広がれば、駿助と同じ同性愛者の友人や恋人ができれば、きっと自分は解放されるだろう。
一颯はそう思っていた。
駿助は外見も華やかで魅力的だし社交的だ。自分は地味で暗く、面白味の無い人間だと自覚している。
いや、本当のところ、一颯に自覚はない……
色が白く、ほっそりとした、少し少年らしさの残る肢体。
派手さはないがすっきりと整った顔立ち。
一颯の物静かな雰囲気はある種の色香があった。
抱けば抱く程に、駿助が一颯にのめり込んでいる事に気付いてはいなかった。
一颯は弟から解放される日を待ち望むと同時に、不可解な寂しさも感じていた。
ドアノブに手をかけ、玄関の前で立ち尽くし考え事をしていると
「一颯君?」
背後から声をかけられた。ハッとして振り返る。
「あ。雨宮さん」
父の古い友人だ。身長は駿助よりも少し高く、一颯は雨宮を見上げた。
優し気な瞳をした整った顔立ちの男だ。
「久しぶりだね」
雨宮は微笑んで言った。
「お久しぶりです。あ、父はまだ帰っていないんですけど……」
「僕も急だったし、ちょっと帰りに寄っただけだから。じゃあこれを預かってもらっていいかな。海外出張のお土産だ。お父さんに頼まれていたやつだよ」
雨宮に渡された紙袋を受け取る。
「じゃあ……」
「あの、お茶でも飲んでいかれますか?」
背を向けようとした雨宮に一颯は声をかけた。
幼い頃、雨宮の事は兄のように思っていた。久しぶりに会った雨宮に懐かしい気持ちになった。
それに、駿助以外の人間と話がしたかった。
「ありがとう。じゃあ少しだけ」
そう言って雨宮は笑った。
一颯はソファに座った雨宮にコーヒーを出した。自分も隣に座ってコーヒーを飲む。
「少し見ない間に大人っぽくなったね」
「そうですか?」
雨宮は一颯のクセの無い黒髪を撫でて言った。
「それに……」
何か言いかけて思いとどまった。一颯は少し首を傾けて雨宮を見た。
「何か悩んでる?」
「えっ……」
雨宮は少し考えてから、一颯に聞いた。
「さっき、必死な顔で引き止めたから。一颯君。何かお父さんにも言いにくい悩みでもあるのかなぁと思って」
一颯の顔色がサッと引いた。雨宮は困ったように笑って優しく言った。
「言いたくないことなら言わなくていいからね。高校生なんて多感な年頃だよ。僕も君のお父さんもだって、悩みはいろいろあったよ」
黙り込んだ一颯を気遣うように、雨宮は話題を変えた。
だが、帰り際に一颯にメモを渡して「相談したくなったらこの番号にかけていいからね。誰にも言わないよ。ふたりだけの秘密だ」と言った。
一颯はメモを握りしめて、閉じたドアをしばらく見つめていた。
それからも一颯と駿助の関係は人知れず続いた。
ある夜。勉強中の一颯の部屋に駿助が入ってきた。当然のように背後から一颯の体を抱きしめ撫でまわした。
「駿助。今は勉強中だ。やめてくれ」
「んなの後でいいだろ」
「お前と……その、した後だと、体が怠くて勉強なんかできない」
駿助がニヤリと笑った。
「セックスした後ってちゃんと言えよ」
「駿助!」
駿助は一颯の顎を掴み、後ろから口付けた。
「う、むぅ……ん、ん……」
一颯はやんわりと駿助の胸を押した。
「……俺は来年受験なんだ。頼むから……」
「浪人しろよ」
不機嫌そうに駿介が言った。一颯は驚いて目を見開く。
「一年待てよ。大学は俺と一緒に行くんだ」
「何を言って……」
「大学生になったら家を出て一緒に住もう」
信じられないものを見るように弟の顔を見た。駿介は冗談を言っているのでも、からかっているのでもなく本気だった。
「お前は、他に同じような人間を知らないだけだ。卒業したら……その、ゲイの友人を作ることもできるだろう」
「おい。お前、俺をホモだと思ってんのか」
「違うのか?」
駿介は苛立ったように一颯の腕を掴み強引に立ち上がらせた。そしてベッドに放り投げる。
「あっ!」
倒れ込んだ一颯の上に乗り上げた。
「他の男になんか興味ない。兄貴だけだ」
「何を言って……」
「まだ分かんねぇのかよ」
駿介は舌打ちをして、一颯にキスをした。ひとしきり貪ってから唇を解く。
「……兄貴が好きだ」
「そんな……」
「何度も言っただろうが。兄貴が好きだ。一颯だけだ」
駿介の大きな手が一颯のシャツの中に滑り込む。ビクリと一颯の体が跳ねた。
「やっ……駿介!」
「離さねぇって言っただろうが。何を聞いてたんだよ。お前は」
「男同士で兄弟なんだぞ!」
「今更だろ」
駿介は鼻で笑って一颯を裸に剥いていく。一颯は必死に抵抗をしたが、無意味だった。
「待って……あ! 話を……待ってくれ!」
「黙れ」
「あぅう!」
駿介の手が一颯のまだ萎えたままのペニスをきつく握った。一颯は冷や汗をかいて硬直した。
「あんま怯えんな。ひどくはしねぇよ。いっつも気持ちいいって鳴いてるだろ」
「……ぃや……やめて、お願……あ!」
ゆるゆるとしごかれて、一颯は身悶えた。駿介の愛撫に早くも熱が灯りはじめてしまう。
兄の白い裸体が快楽に染まり始める様子に、弟はゴクリと喉を鳴らした。
「一颯だって好きだろ。俺とセックスするの」
「あ……ちが……あぁあ……」
駿介は指を舐めて濡らし、一颯のアナルにぐっと押し込んだ。一颯は「ひぃ」と背を反らす。
「ほら、ケツでもすげぇ感じるようになったじゃねぇか……」
「あっ、あぁあ……やぁ、あ!」
一颯は頬を朱に染めて甘い声をあげた。アナルに触れられると条件反射のように前も勃起してしまう。
この体は弟の手によって淫らに変えられてしまった。
「こんなんなっちまって。兄貴はもう女なんか抱けねぇぞ。それに自分から他の男なんて誘えないだろ」
「あ、あ、はぅうう……ひ、ああ……」
「お前には俺しかいないんだよ……ッ!」
「あ!」
駿助はおざなりに解した後孔に、すでに高まった男根を押し当て一気に貫いた。
「あぁあ───ッッ!!」
「一颯……ッ!」
兄の細い足首を掴み、頭上に倒した。大きく股を開かせ、若く勇猛な雄を根本までぐっぽり咥えこませる。
「……っ……兄貴のケツの孔……もう女のマンコと一緒じゃねぇか」
「いやぁ! 言わないでぇ……ああぁ」
一颯は弱々しくもがいたが、それが余計に弟の雄の欲望を煽った。
「そうやって、嫌だって言いながら男を煽るんだよ……兄貴は」
「いや、いやぁ……違う…煽ってなんか……ぅああ!」
パンッパンッと肉を打つ音を響かせて兄を犯す。肉壁は熱くうねり、弟の肉棒を淫らに食い締めた。
「……はぁ……こんな体でまともに生きていけねぇぞ」
「嫌ぁ……そ、んな……お前がっ……お前のせいで……ああ!」
「ああ……俺が兄貴をケツマンコにしてやったんだ。俺のものだ……ッ」
「あっあっ……しゅんすけぇ……あ、はぁああ……!」
駿助はガツガツと激しく犯しながら、一颯の黒髪を掴み押さえつけて言った。
「……俺のだ。一颯は俺のものだ。絶対に離さねぇからな!」
「しゅ……すけ……あ、あぁああ……っ」
一颯は涙で潤んだ瞳で弟を見上げた。なぜ弟はこんなにも……
「なんで……あ! どうして、俺なんだ……あぁあ!」
「知るかよ。昔からずっと……兄貴じゃないとダメなんだ。俺から離れるなら殺すからな……ッ!」
恐ろしい事を情熱的な声で言う弟にゾクリとする。一颯が感じているのは恐怖と……甘い愉悦だ。
自分とは真逆で、社交的で魅力的な弟は自分にこんなにも執着している。
その事実にゾクゾクする。
それに一颯の肉体は快楽にすっかり陥落していた。
だが、精神はまだ抵抗していた。このままでいいはずがない。
───どうすれば……。
「あぁあ……駿助……あ、だめ、あぅう……」
「一颯……言えよ……ほら、言えって」
ぐっと押し上げられて、一颯は戦慄く唇からいつものように言葉を紡いだ。
「あぁ……好き……もっとして……いかせて…すきだから、アッ!」
「一颯、一颯……俺も好きだ……ッ!」
ギシギシとベッドを軋ませ、ラストスパートの激しさで一颯の華奢な体を揺さぶる。
一颯は駿助の雄の突き上げに尻の快楽だけで絶頂に上り詰める。
「駿助ぇ……あ! イクッ───あああッ!!」
「一颯ッ!!」
二人は同時に絶頂に達し、駿助は一颯の上にがくりと倒れ込んだ。荒い呼吸を繰り返す。
一颯は震える手で駿助の髪を撫でた。
───このままでいいはずがない。どうしたら……
ともだちにシェアしよう!