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雨宮
数日後、一颯は雨宮に電話をした。
雨宮は一颯の様子から何か察したのか、外では話しにくいだろうと部屋へ招いてくれた。
「さあ、入って」
「お邪魔します」
雨宮のマンションに来るのは初めてだった。
「コーヒーでいい?」
「はい。ありがとうございます」
雨宮にすべてを話すつもりなんてない。ただ、誰かに会いたかった。それに親や弟に内緒で卒業後は家を出て自立したいことを相談したかった。
大学は行けなくてもいい。一人で働いて暮らして、駿助と離れなければ。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
「リラックスして」
雨宮は一颯の緊張を解すように笑った。一颯はその笑顔にほっとする。
雨宮はしばらくたわいのない話をした。一颯から話したくなるのを待ってくれているようだった。
そんな気遣いが有難かった。
弟と歪んだ関係になってしまっても、弟を憎み切れない。両親にばれないように家ではずっと神経を使っていた。
一颯には気を抜ける場所も時間も無かった。
……いや。駿助に嵐のように抱かれた後。駿助の逞しい腕に抱かれて眠るときはすべてのしがらみから解放されているのかもしれない。
そんなことを考えていると、雨宮に名を呼ばれた。
「一颯君?」
「あ。すみません」
一颯はハッと顔を上げて雨宮を見た。
「あの……」
そして、あくまでも「卒業後の進路相談」という形で雨宮に相談をした。
「なるほどねぇ。真中にも内緒となると難しいんじゃないかなぁ」
「……そうですよね」
当たり前だが、父に内緒で家を出るのは難しそうだ。進学目指して勉強してきたのだ。いきなり進路を変えれば訝しむだろう。
「一颯君は勉強が好きな子だったと思ってたけど、急にどうしたの?」
「あ……」
口ごもる一颯に
「弟君のせいかな?」
と、雨宮が言った。
「駿助は関係ないです!」
思わず声を荒げてしまい、一颯は気まずくなって俯いた。
「……一颯君」
雨宮はそっと一颯の肩をそっと抱いた。
「僕に助けてほしいから来たんじゃないの?」
「えっ」
雨宮はスマホを手にして、一枚の画像を見せた。
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