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第5話

「なッ…」 「いや、お前のような奴は、楠木の家の汚点…、この血で出来損ないを作ってしまった…私の汚点だ…」 さらに冷徹な言葉… 「なんで…、そんなにまで言われなきゃ、ならないんだよ!」 堪らず叫ぶ… 嫌いなら嫌いでいい…けど、汚点て…そんな言い方… どうにも納得いかないアキラ… オレは存在するだけで…害するものなのか? 「…あの時、殺しておくべきだった。お前は、生きたとしても価値がない。お前に未来はないのだから…」 (…殺す?…未来がない?) 「勝手に…勝手に決めつけんなッ!…オレだって、楠木の…」 必死に言い返すが… 「跡取りは一人居れば充分だ…昂治がいる。お前は必要ない」 淡々と語るその唇… アキラにさらに衝撃がはしる。 「……コウジ」 呟き返してしまうアキラ…声が震える。 同じ血を引いているのに…コウジは必要で自分は必要とされない… その不平等さに、悔しさ怒りが込み上げる。 自分の存在を否定し続ける弟の名… 自分の名前は、一文字だって呼んでくれないのに… 「…どうしてコウジは、オレの方が先に生まれてるのに…」 アキラは必死になって聞いていた。 「……」 しかし、父は煩げに家に入る。 アキラもそれを追う。 犬達は心配そうに玄関前で止まっている。 家の中には入らないように躾られているから… 「…待てよ!」 なんとかして話しを聞こうとアキラは呼ぶ… 滅多に見せない、ムキになったアキラの姿… アキラは父親に、あからさまに存在を否定されて…許せない気持ちでいっぱいだった。 それでも無視して家に上がる父。 そこへ驚いたようなコウジの声… 「お母さん本当だ、お父さん帰ってきた!」 「……」 父親は、コウジの姿を見ても相変わらずの無表情で… 「お父さんありがとうございます!…明日、えっと、忙しいのに…ごめんなさい、でも…遊園地ずっと楽しみにしてました。よろしくお願いします」 コウジは元気よく、やや緊張して恥ずかしがるように父に話かける。 「あぁ…そういう契約だからな…」 無機質にポツリと答える父。 (明日?…契約?) アキラは後ろから様子を伺いながら心の中で考える。 「コウジ、宿題が残っていたでしょう、先に終わらせてしまいなさい」 ふっと横から声を出したのは、コウジの母親ユカリだ。 「はーい!」 コウジは素直に言う事を聞いて、奥の部屋に入って行った。 「…ミツルさん、子供の前で契約のことを出すのは控えていただきたいですね、あの子は純粋に父親との関わりが嬉しい年頃…分かっていただけます?」 少しつんけんした態度で父、ミツルに話し掛ける義母… 「あぁ…」 二人は、アキラの存在など無視で…ピリピリした雰囲気を漂わせている。 「今日は珍しく帰宅が早いんですね?少しは息子に愛着を持ってくださったのかしら?」 ユカリは続ける。 「…呼ばれれば、また院に戻る」 煩げにだが会話を続けるミツル。 「ふ…戻るね、貴方は…年に1、2度しか帰らないこの家よりも、病院の方が自宅ですものね…」 嫌みを込めたユカリの言葉にも…平然としているミツル。 「こうして…年に一度は付き合っている…遊園地などに」 早く会話を終わらせたいようなミツルを見て…ユカリはいらだたしく思い… 「それは…いくら貴方が血も涙もないお方でも、婚約の際の約束事ですから、守っていただかなければ、昂治を連れて出て行かせていただきますから…そのおつもりで」 ぴしゃっとした物言いで、ミツルに言い放つユカリ。 「判っている…」 そんな事を言われても顔色ひとつ変わらないミツル。 「えぇ、コウジが小学校卒業までは付き合っていただきますから…」 そう、ふんと怒ったように言い終えてリビングに消えるユカリ…

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