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第6話
「……」
ミツルは溜息をついて、リビングには向かわず自分の書斎へ入る。
「どういう事…明日」
話しを聞くかぎりでは…コウジは父ミツルと明日、遊園地に外出しに行く…?
コウジだけが…?
「……っ」
いつもなら孤独な気分を味わうことがあっても何も感じない振りをしたけど…
それは…ユカリさんも、家政婦も…自分とは血の繋がりがない存在だから、何も求められないけど…
しかし、目の前にいる人物は…まぎれもなく自分の父で…
次はいつ帰ってくるか分からない…
今、伝えないと…そしてなぜ自分は必要ないのか…聞かないと…
アキラは書斎に入ったミツルを追った。
「なんで、コウジには…オレだって、アンタの息子なんだ!それなのにオレだけ必要ないって…どうゆう事だよっ!」
アキラは叫ぶように言葉を投げつけるが…
「お前と話している暇はない…」
ミツルに聞く気はさらさらなく…冷たく言葉を返し、椅子に座って…なにやら作業をはじめる。
「オレはアキラだ、ッ…何で、コウジは遊園地に連れていくのに…オレは、話しすら聞いてくれないんだっ」
ミツルの態度はさらにアキラの心を煽った…今まで我慢してきたものをぶちまけるように…
「…好きで連れていくわけではない」
ひとつ溜息をつき…
引きそうにないアキラを見て、言葉を続ける。
「お前は…連れて行ったとしても足手まといにしかならない、遠出は出来ない…大人しく家にいることが無難だ」
視線を作業中の書類に戻し…呟くように話すミツル。
「だから、なんでそう決めつけんだよッ」
足手まとい…遠出は無理。
試してもないことを勝手に決めつけられる怒り…
「お前も…そのうち分かる、生きていることが苦痛にしかならない時が必ずくる」
息をつき…そう伝えるミツル。
「その時に…自分自身と健次を怨むがいい、お前を生かした健次を…」
「なッ…なんで健次さんを怨まなきゃならないんだよっ、あんたなんかより、余程いい人なのに…」
自分がもつ病気のことを知らないアキラは、父の言葉の意味が分からない…
「健次は甘い…。そのうち分かる筈だ、意志を持たぬうちに…死んでおきたかった…と、」
作業を続けながら、ついでのように言うミツル。
「……ッ」
「…死にたくなったら、いつでも来ればいい、誰にも迷惑をかけず…安楽死させてやる」
ミツルは淡々としていた…まだ幼い息子に対しても限りなく冷たい…
「なッ……、アンタ、それでも医者かよッ!」
安楽死…?
オレは生きることすら否定された?
愕然としながらも…どこか他人事のように感じて、言い返すアキラ。
「医者だからこそ、分かることだ…」
苦しみを背負いなお生きなくてはならない苦痛…
何度も目にしてきているミツル。
しかしアキラには伝わらない…
「分からない、アンタの言ってる事が…オレには分からない!」
自分の父親がこれほど冷たい、人間離れした心の持ち主だったことに深くショックを受けるアキラ。
「…気が済んだなら、出て行くんだな、邪魔だ」
そんなアキラに対しても変わらず無表情で言うミツル。
「ッ…アンタには、オレが、気が済んだようにみえるのかよ!」
瞳を睨んで言い返す…
「オレのことなんか…見てないくせに…!」
会話をしているのに、まったく誠意を感じられないミツルの態度が悔しくて腹がたつばかり…
アキラはミツルの方へ近づき机をバシと叩く…
「健次の話とは大違いだな…」
煩げにアキラを見たあと溜息をつき呟くミツル。
「な…」
「健次はお前のことを手のかからない子供だと言っていた…しかし、これならば、昂治の方がよほど手がかからない…」
そう兄弟を比べるミツル。
「なんで…オレだけ…なんで、コウジとオレ…どこが違うんだよ…」
コウジには会って遊びにまで連れていくのに…
小学三年になって…初めて会った父に、聞きたいことは山ほどある。
それを聞くことすら煩さがられる…
「…何が望みなんだ」
溜息をつき続けるミツル。
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