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第7話
「平等に…」
見て欲しいだけ…
「平等?ならば…私が認めるだけの成果を出してこい」
「…成果?」
聞き返すアキラ…
「成績だ…」
淡々と言うミツルの言葉に真剣に答えるアキラ。
「学校の成績なら…」
小学校の成績は3段階評価…
アキラの成績など見たことがないミツルは知らないのだ。
アキラの成績は、1年の頃からほとんどの教科でいい成績をとっている。
体育を除いては…
「すべてA評価なら昂治と同等に見てやる」
あまり真剣でもないミツル…早く話しを終わらせたいだけなのだが…
「すべて…わかった!」
アキラはその言葉を信じてしまう…
やってやる、絶対にオレの存在を認めさせてやる。
「今言ったこと、忘れんなよッ!」
無反応な父親へ、存在を認めない父へ…必死になるアキラ。
(自分を見てほしい…認めて欲しい…)
初めて表に出した、子供らしい感情…
それを受け止めるものは…ここには誰もいないのだけど…
ミツルはアキラを無視するように、鳴りはじめた電話を取る。
「あぁ、私だ…やはりか、すぐ戻る」
短く電話を切る。
そして、素早く内線をかけるミツル。
「院から連絡があった…あのクランケ、やはり状態が悪い…緊急のオペになるか分からない…だが、明日までには戻る」
おそらく内線電話の相手はユカリなのだろう。
一応断って…仕度を整え、アキラの存在など無視して行こうとする。
「ちょッ…」
「お前に構っている暇はない…患者の命がかかっているんだ」
冷静に言葉にすると、あっという間に出て行ってしまうミツル。
「……」
呆然としてしまうアキラ。
さっきまでは、人の命などどうでもいいような…医者にあるまじき事を言っていたミツルだったが…
今のミツルは…
人を助ける為に病院に戻った?
たったひとりの患者のためにわざわざ…
あれほど冷たい父だから…一人くらい見捨てるのかと思った…
息子には死を促し…他人は助ける…
「訳…わからない」
そこまで極端だと…父の思考回路が読めない…
そういう人間だ…と。
小学3年生のアキラには、まだ割り切ることができない…
ひとり残されたアキラ…静かに歩いて再び外に出る。
「くぅーん」
外で大人しく待っていた2匹の犬たちが、アキラを確認して寄ってくる。
「…いこ」
犬達の頭をなで、小屋までくる。
「……」
犬小屋の横の椅子に座りながら…
「期待はしてなかったけど…あんな人だなんてな…」
犬たちに語りかけるように独り言を呟くアキラ。
健次さんが敢えて話さなかった人…
その程度の人だとは分かってた…
けど…
「…差別、なんでオレだけ…」
オレはこの家に必要ない人間で…
じゃ…
「オレは…何で生まれたんだろ…」
オレが生まれたせいで…あの人だって…
「…あの人は…今、幸せなのかな…」
あの人とは…実の母親のこと、普段は思い出さないようにしていたが…今は気になってしまう…
一度だけ会ったことがある。
綺麗で…優しそうで…そして辛く悲しそうな瞳で自分を見ていた……。
少しだけ思い出して…しかし、首を横に振るアキラ。
「駄目だ…」
母親の存在は記憶の中から消さないといけない…
あの時…母はそれを望んでいた…
自分のことも、この家の事も…忘れたいと…
だから…思い出してはいけない…
会いたくなるから…
「…生きる意味って…なんだろうな…」
ぽつりと呟くアキラ…
寂しそうなアキラをなぐさめるように2匹の犬たちが体を擦り寄せてくる。
「お前ら…」
その温もりに笑顔を零しながら…犬たちを撫で、身体を寄せるアキラ。
「うん、オレにはメアリーもリッツもいるし、健次さんだって優しいから…平気だよ。ただ、やっぱり親父がムカつくから…今度の成績、全部良いとって、見返してやる!」
ツンと言葉を尖らせて言うアキラ。
そう小さな胸に決意するのだった。
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