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第10話
「…そうです、僕はアキラに生きていて欲しかったんです」
まっすぐアキラに伝える健次。
「……」
「…楠木の家は、とても冷徹な考えを当たり前としています。僕は、それは違うと今でも反発していますが…兄は、その通りに生きています。そうなるように、育てられたから…。反発する者は追いやり…使えない者は切り捨てる」
医者になることができないアキラは、生かす価値がないと、楠木家で判断されてしまった。
「小さな身体で必死に生きようとするあなたを、その命を、摘むことなど…」
僕には出来ない…
「障害があるからといって、その子のこれからを…全て奪ってしまう権利など誰にもないのですから…」
そう、確信を持って言う健次。
「アキラ、ここにはアキラと同じように生まれながら重い病気を抱えたこどもがたくさんいます。病室から一歩も外に出られない子も…それでも、自分の運命を受入れ、必死に闘っています」
健次はさとすようにアキラに伝える。
「アキラ、確かに…アキラの病気はツラいものです。しかし、アキラはそれに打ち勝つ強い心を持っていると、僕は信じています」
静かに聞いているアキラへ…優しく言葉をかける健次。
アキラは…どんな辛い状況でも、弱音を吐かない…芯の強い子。
「…オレ、今日、色々分かったけど…わからないこともまだまだある。病気の詳しいコトとか、でも…」
健次の瞳を見て…
「…けんじさんが、生きていて欲しいって、そう思ってくれたから、オレは今ここにいるんだよね」
病気の告知を受け…それでも前向きな気持ちでいるアキラを見て、安心したように息をつく健次。
「はい。そうですよ…」
望まれず生まれてくる命など…あってはならない。
「オレ…生きていても、いいんだよね…?」
存在を否定する奴らが多すぎて…
でも…健次さんは認めてくれているから…
それだけでも…
生きていける…
「当たり前です。僕は、アキラの成長が楽しみなくらいですから…」
優しく答える。
「ありがと…けんじさん。オレ、絶対認めさせてやる…約束したんだ、あの親父と!」
「え…」
急にミツルのことを話しだすアキラ。
「差別…されたくないから、病気だって、今は治らないけど、いつか治るかもしれない、病気だけで用無しって決めつけられるのは悔しいから…」
負けず嫌いなアキラらしい想い…
でも…
ミツルの心を変えることは、できないだろう。
それを…希望もつアキラに伝えられない…
「それに、頑張れば今なら体育でもコウジと変わらない成績取れそうだし…同じだって証明してやる!」
アキラの決意は、揺るぎ無い…
「頑張り過ぎないように…アキラ」
そう優しく見守るだけの健次…
(何をどれだけしても、ミツルはアキラの事を認めはしない…)
そんな、冷たいことは言えないから…
ミツルは、病気持ちという、それだけでアキラの事を劣悪と決めつけているのだから…
アキラから病気が消え去らないかぎり認めやしない…
それに…この容姿、淡い栗色の髪に深い緑色の瞳…
兄ミツル自身も嫌っているから…
救いようがない…
アキラはただ、生きていく為に、認められる為に必死で…
健次は、健気なアキラの思いを、少しでも叶えてやりたいと思い、アキラが帰った後、ひそかにミツルへ電話をかける。
無駄だと…分かっていても…
「兄さん今、時間あいてますか?」
『健次か、何だ…』
電話口で、ぶっきらぼうに答えるミツル。
「…アキラの事で話があるんです」
真剣な口調で切り出す健次だが…
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