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第16話
アキラは入院中、どんなに痛みを伴う治療でさえ、一度も涙を見せたことがない気丈な子…
そんなアキラが…今、目の前で大泣きしている。
それは…麻痺した足の痛みだけで泣いているのではないことが充分伝わる。
「……」
比較的、小柄な健次だが、震えるアキラの身体をしっかり抱き抱え…病院内に急ぐ…
急患専用の入口から入り、処置室のさらに奥の診察室へ連れていく…
「おい、健次!急患か?」
途中、子供の泣き声に気付き亜澄先生が聞いてくるが…
「いや、僕ひとりで大丈夫、亜澄…少し医局抜けるからよろしくッ」
健次は信頼できる親友に簡単に伝え、アキラを抱えたまま奥へ姿を消す。
「はぁ?…ったく、少しは院長の自覚もてよな…」
唐突な健次の言葉に驚きながらも、仕方ないなぁと健次の代わりに医局へ顔を出す亜澄。
長年の付き合いで、唐突な健次の行動にも、悪意はないと信じているから…
やや小さめのあまり使用されていない診察室。
小さなベッドの上、そこへアキラを寝させ顔を隠して泣くアキラの背をトントンと優しく撫でる。
「…足はすぐ良くなりますからね」
もう片方の手で麻痺している足を摩る。
「…っぅ、ん」
健次の声を聞いているうちに…しゃくりあげるほど泣いていたアキラだが、だんだんとココロのナカも落ち着いてくる。
「……」
アキラの泣く理由…
健次にはなんとなく察しがついていた。
先ほど本院から兄の満が来ていた、帰ってからのタイミング…
アキラはミツルに会ったのだ、そして何か…アキラを傷つけ泣かせてしまうほどのコトがミツルとの間であったにちがいない…
アキラの様子を察して確信する健次。
父親であるミツルが息子のアキラを傷つけた…
あれだけアキラに対する接し方を変えるように言っておいたのに…
心ないミツルにはひとかけらさえ伝わっていない。
怒りの心よりも悲しく思えてくる健次…
しばらくして、アキラを苦しめていた両足の麻痺が治まり、息遣いが安定してくる。
「アキラ…」
もう一度、健次が話し掛けると…
「…ごめ、んなさい、大丈夫です」
すっと涙を拭いながら謝り起き上がって座るアキラ。
「…なにか、あったんですか?アキラ」
優しく聞いてみる健次だが…
「…ううん、」
隠すように首を振るアキラ。
「でも…」
「…足が痛くなって、立てなくて…悔しかったから…」
うつむいたまま、やはり隠すアキラ…
「……」
健次は、聞くか迷ったけれど…あえて口にしてみる。
「…会いませんでしたか?あなたの父親に…」
「っ…」
父親という言葉にピクッと反応するアキラ。
さらに下を向き、首を強く振って否定する…
「…アキラ、」
「違う…あんな奴、…父親なんかじゃ…ないッ」
キリッと唇を噛み…身体を震わせて涙を堪え、そう…言葉にするアキラ。
「…アキラ、すみません」
そんな痛々しいアキラの姿を見ていられなくて…謝罪の言葉と共に、小さな身体を包み込むよう、ぎゅっと抱きしめる。
「…健次さん?」
やはり優しく抱きしめられることに慣れていないアキラ…
どうしたのかと名前を呼んでくる。
「そうですね…アキラ、僕と遊園地行きましょうか」
健次は柔らかく笑顔で誘う。
「えっ?」
唐突な健次の言葉にも驚くアキラ…
誰かにどこかへ連れて行ってもらったことなどないアキラ。
いつも置いて行かれていたので、その誘いはすごく嬉しいもの…
しかも大好きな健次と一緒…
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