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第17話

「どこか行きたい所はありますか?アキラの好きな所へ連れていってあげますよ」 頑張ったアキラに、なにかしてあげたい健次… 父親にも、義理の母からも干渉されることがないアキラに一番の愛情は、傍にいてやることだと思ったから… アキラの為に時間をつくり、アキラに話しかけ…アキラの話をきいてやること… それで少しでも、傷ついた心が癒されるなら… 「…でも、健次さん…仕事があるから」 アキラが知るかぎり健次はいつも働いている。 「そんなことは…心配しなくてもいいんですよ、少し休憩したら行きましょうね」 アキラをベッドに横にして休ませながら、優しく言う健次… 「…うん、ありがとう…健次さん」 少しだけ笑顔をみせるアキラ… 「いえいえ、少し待っていてくださいね…すぐ来ます」 「うん」 そう言って診察室から出る健次。 アキラには大丈夫と伝えたけれど、仕事…、現役医師であり若院長である健次は、殆ど休みなどなく働いている。 分かっているだけでも、先一ヶ月半は、休日がない。 それではアキラの傍に居てやることもできないから… 健次は、協力を得る為、医局へ戻る。 「悪い亜澄先生」 「健次、こっちは変わりないぜ、急患もナシ、さっきの子どもは?」 「うん、大丈夫…休ませてる、アキラなんだ…」 「えっ?あの泣いてたのが?」 アキラのことを知っているので、かなり驚く亜澄。 「…うん、兄さんが、あの子を傷つけたんだと思う…」 「あー、さっき来てたもんな、あの人もたいがい難しい人だ…」 「…亜澄、院長の僕が頼めることではないけれど…」 「どうしたよ、今更遠慮はなしだろ?」 「…少しアキラと外出してきたいんだ、傍に居てやりたくて…」 「そんなことか、行ってくればいいだろ、お前のすることなら誰も止めねーって」 「…それはもちろん、みんなにも断っていくけれど、僕が抜けている間の代わりを、亜澄に頼みたいんだ…」 申し訳なさそうに頼む健次。 「だからいいって言ってるだろ、この時間まで俺がここに居るってことは帰る気ないんだ、ついでに勤務してやるから…」 亜澄は当直明けだが、昼過ぎた今まで残っている。 「…亜澄、ありがとう」 理解ある親友に感謝する健次。 「お前もいい加減働き過ぎなんだよ…病院のことは忘れて息抜いてこい。ほら、副院長にも伝えて行けよ、時間なくなるぞ」 「この借りはまた返すから!」 「いいって…」 急いで出ていく健次を温かく見送る亜澄。 健次は外来担当している副院長にも伝えにいく… 「そういう事なら…行っておいで、あまり遅くならないように…」 高齢で温和な副院長は快く許してくれる。 副院長と言っても、院長の健次が若い為、なにかと助けてくれる頼れる人物… 「ありがとうございます、勝手言ってすみません…」 深く感謝する健次を優しく見送ってくれる副院長。 そして、他の医師たちにもひとりずつ断っていく健次… 皆、健次のそういう優しい人格に集まった医師達ばかりなので亜澄と同様に快く許してくれる。 ただ一人を除いては… 「磯崎先生…」 声をかけた人物は健次に冷たい視線を送っている。 この磯崎仁という医師は健次が院長になったと同時に、本院から送られて来た…いわば監視役。 健次が院長として充分な仕事が出来ているか見極める為にいる本院からのスパイ…いつも健次には冷たい評価や態度を示す。 「そんな理由で仕事を投げ出すのか…」 「そんな風に思っていません、戻ったら皆に迷惑をかけないように自分の仕事は自分でします。僕はあの子をほっておくことは出来ないんです」 頭を下げて頼むが… 「お前は甘すぎる…院長としての責任も、自覚も備わっていない、止めても無駄だろうが、それなりの代償は覚悟しておけ…」 冷たく言い切る磯崎医師。

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