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第20話
「…いえ、それは私の意志です」
嘘はつけない健次。
「話しにならんな…」
「こんな事では、この病院は任せられん…」
元々、正論を言う健次を邪魔者と思っている二人。
早急に結論を出す。
「楠木健次医師には、当分の間、他県の分院で医者の精神を基礎から学び直すべきだな…」
またも左遷命令…今度は他の県に。
「な、それは…」
健次もさすがに驚き言葉をだすが…
その会話の内容を聞いてしまったアキラ…
ショックのあまり廊下でひとり立ち尽くしてしまう。
健次さんが…遠くへ行かされる?そんなの…
(嫌だ…)
オレと出掛けたから健次さんは…
オレが健次さんの前で泣いたりして…心配かけたから…
アキラはショックのあまり、頭の中が整理できなくなって自分を責めてしまう。
責めるしかできない…
このままじゃ、健次さんの働く場所を奪ってしまうことに…
アキラはよほどこの扉の向こうへ飛び込もうかと思うが…
それを制するように声が聞こえた。
「待てよ、健次はこの病院の為に人の倍、勉強して働いてきたんだ!この院の院長はこいつしかいない!」
健次の後ろにいた医師が健次を庇う…亜澄だ。
「そうです。私たちは皆、あなたがたのやり方に不満を持っていた、でも健次院長のもとならそんな重圧を受けずに働ける」
亜澄に続いて言葉を出す青柳医師…
「今までも大きなミスもなく、外来患者数も基準値以上、院長として充分な働きをしていると思います」
「左遷する理由が今日のことだけなら、私たちは納得できません」
その他の医師たちも次々と健次医師を庇う。
「みんな…」
驚く健次だったが…
「今日のことは、私も許可をだしました。院長を左遷なさるならこの私も…」
副院長まで言葉をだす。
「副院長…」
さすがに、ほぼ全員の反感を買ってしまった二人は、気まずくなる。
「そ、そこまで言われるなら…今日のところは引きましょう」
「しかし…次はないと思っておくように…若い院長」
釘をさすように健次に言って足速に去っていく二人。
廊下にいたアキラとすれ違うが…眼中に入っていない。
部屋では、二人が出て行った為、いつものザワつきが戻っている。
健次がもう一度みんなに謝り、お礼を言ったりしている。
「……」
呆然としているアキラだったが…健次が遠くへ行かなくてすんだということは分かって、ほっと身体の力が抜ける。
その場に座り込んでしまうアキラ。
結果的には健次さんに処罰はなくなったけど…次はないと言われてた。
だからもう、健次さんには…迷惑かけれない…
泣いたりしない…
心配かけたらいけないんだ…
健次さんがお父さんだったら…本当によかったけど、やっぱり違うから…
髪の色も、目の色も…全然違う。
認めたくないけど…オレは、どうみても…アイツの子供だから…
これ以上、健次さんに甘えちゃいけない…
小学3年生のアキラはそう強く思って健次の車まで戻る。
そして、手紙を書いてそこに置いていく…
今日のお礼と、養子の話を断って…あと独りで帰るということを…
アキラは健次の車から離れ、暗くなった道を独りバス停に向かって歩く…
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