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第4話
一週間前、佐伯さんの奥様――八重さんの十七回忌の法要後に、僕は佐伯さんとちょっとした諍いになり、彼の放った一言を誤解し、不必要な絶望と落胆を味わいました。
佐伯さんは優しいです。だらしないところもあるけれどおおらかで、男娼だった僕を受け容れ、長年大切にしてくれていました。亡くなられたけれども奥様がいらっしゃるから、なれるとしても愛人です。それでも、僕には十分でした。
けれども結局、僕は彼にとってただの男娼。愛人なんて程遠い存在で、佐伯さんの優しさを勘違いしていた愚か者なのだと、思い込んでしまったのです。
それを佐伯さんの一人娘である妙子さんの助けもあり、彼は僕と真摯に向き合い、本心を告げてくれたことで、僕の誤解は跡形もなく解け、そして僕たちは夫婦――いえ、夫夫と言うべきなのでしょうか、ともかくそういった関係だと相互認識するようになったのです。
「そうだ。俺はお前の夫で、お前は俺の女房。だから――」
「……んっ」
佐伯さんが僕の唇を柔く吸いました。ちゅっ、と軽くて瑞々しい音が小さく響き、それから彼の吐息まじりの笑みが耳を掠めました。
「こういうことをするし」
「ひゃっ」
僕の頭を包んでいた佐伯さんの右手で、背中から腰にかけてをねっとりと撫でられ、くすぐったさに思わず色気のない声が飛び出ました。
「こういうことだってする」
「……ふふ」
怠くてどこか重い身体をよじって、くすくすと笑う。面映ゆくて、どうしようもなく嬉しい。そんな僕を見て、佐伯さんの唇も左右に広がり、そのまま汗ばんだ僕の額に宛てがわれました。
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