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第9話

薄くまぶたを上げれば、涙で潤んだ視界を恍惚とした表情の治信さんが占めました。彼の鋭い目は情熱的に光り、眉間にはきつく皺が寄り、普段は紫がかっている唇はほんのりと朱く染まり、歪なかたちに開いていました。 顔じゅうから噴き出た汗が彼の細い顎に伝っていき、同じく汗まみれの僕の顔にぽた、ぽた、と滴り落ちてきます。一生懸命に腰を揺する彼がどうしようもなく愛おしい。そう思い、胸がきつく締めつけられたのち、僕は三度目の絶頂を迎えました。 最奥を貫き、ぴたりと動きを止めた治信さんが、獲物を狙う肉食獣のような呻き声を吐き出しながら、僕のなかに精液を放つと、身体を弛緩させ、目の前が真っ暗になっていこうとしていた僕に体重を預けてこられました。 「……みつる……、愛してる……」 耳元で告げられた愛の言葉は、僕の意識を蜜のごとく溶かしていきました。 あれから、どれくらいの時間が経ったのでしょう。 泥のような眠りから覚めると、治信さんの姿はありませんでした。障子が閉めきられ、電気が消えた仄暗い部屋に、僕だけがいました。 布団の中で寝ぼけ眼を擦りながら気怠い身体を起こせば、腰や臀部にじくじくと熱い痛みを感じ、思わず顔をしかめました。 昨夜の名残をまといながらも、身体は隅々まで清められ、さらには昨日洗濯したばかりの寝間着を一切の乱れなく着せられていました。が、布団からは汗と体液のにおいが漂ってきて、これは今日絶対に洗わなければならないという使命感が胸のうちに刻まれました。僕は簡単に布団を畳み、よろよろと軸がぶれた歩き方で寝室を出ました。

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