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一触即発

「あぁ!? なんだてめぇ。客は黙って食ってろ!!」 「は? お前みたいな輩が作ったもん食えるかよ」 高杉が威嚇するように、志狼を睨み返す。 「あっ。あの……」 鉄平はオロオロと狼狽えた。 「人のものに手ぇ上げんじゃねえ」 高杉の眉がピクリと跳ねた。 「……誰が、誰のもんだって?」 高杉が厨房から出てきて、志狼と向かい合う。 店内は一触即発の空気に、ピシリと固まった。 だが、色男同士の睨み合いにワクワクしている者もいて、こっそり写メを撮っていた。 高杉も180を超える長身だが、志狼ほどではない。 志狼は刑事で、高杉は料理人だ。 もし、喧嘩にでもなったら…… 「あいつは俺の……!?」 厨房から慌てて出てきた鉄平が志狼のお腹にしがみついてきた。 「しろう。ダメ!」 小さな体で押し返そうと、志狼をグイグイ押している。 だが、あまりにも弱い力だったので、甘えて抱きつかれているようにしか感じなかった。 「……お、おい。タマ」 鉄平本人は必死なのだが、側から見ても抱きついているようにしか見えなかった。 高杉も唖然として見ている。 「け、ケンカしちゃ、だめ。俺がお皿割っちゃったから悪いんだ。高杉さん、ごめんなさい」 鉄平がぎゅうぎゅうと志狼に抱きつきながら必死に言った。 「ああ、もう」 志狼は完全に鎮火して、鉄平をぎゅうと抱きしめた。 「わぁ」 「た、玉山。お前……」 高杉が困惑した顔で、鉄平を見ていた。 志狼はヒョイと鉄平を抱き上げて 「俺はこいつの保護者だ。こんなDV料理人がいる店で働かせられん。今日で辞めさせる」 「え? え!? ちょっと、待って。しろぉ!」 オロオロする鉄平を子供のように抱き上げ、志狼は大股で店を出て行く。 店内の客も竹田も高杉も、みんなポカンとしていた。 子供のように片腕で抱きかかえられた鉄平は、志狼の首に抱き着くようにして慌てていた。 「待って! 待ってよ、しろう!」 「お前。あの男はいつもああなのか?」 「え? 高杉さんは怒りっぽいけど、良い人だよ。さっきは俺がお皿割っちゃったから……」 志狼が立ち止まりキロリと鉄平を見た。 「良い人、か」 「うん! 今日も俺がしんどいんじゃないかって、休憩してこいって、ジュース奢ってくれたし。悪い人じゃないよ!」 自分のバイト先の人間を志狼に誤解してほしくなくて、鉄平は一生懸命にフォローをする。 高杉を庇えば、庇うほど、志狼の機嫌が悪くなるのに気付きもしない。 「タマ」 「はい」 「帰ったら、お仕置きな」 「え? えっ!? なんで!?」 鉄平は慌てまくったが、志狼は今はこれ以上話す気は無かった。 「お~い! 玉山く~ん!!」 店長の竹田が走って追いかけてきた。 「よ、よかった……ハァ。追いついた……ゼェ」 小太りの竹田は久々の全力疾走で、息も絶え絶えだ。 「店長! ごめんなさい。俺……」 「はぁ。大丈夫大丈夫。お客さん、面白いもの見れたって喜んでたし」 「え?」 「高杉さんのマヌケ顔」 竹田はハハハと笑って言ってから、志狼に向かってぺこりとお辞儀をした。 「店長の竹田です。あの、玉山くんの保護者って……」 「ああ」 「あの、家族が闇金に追いかけられて、夜逃げしちゃって。それで、あの、今お世話になってる人です」 「夜逃げって!? 玉山くん大丈夫なの?」 竹田が夜逃げと聞いて驚いた顔をした。 「問題無い。闇金には俺が話をつけてきた」 「あっ。しろうは刑事さんなんです」 竹田がまた驚く。 「刑事さんですか!」 「店長。俺……ずっと話さなきゃって思ってたんだけど、辞めるって言い出せなくて……」 鉄平がしょげた顔で竹田を見た。 「あ~。正直、玉山くんに辞められると痛いなぁ。高杉さんがアレだから、バイト続く子が中々いないんですよね」 竹田は深々と頭を下げて、頼み込んだ。 「次のバイトが見つかるまで、金曜と土曜の二日だけでも残ってもらえませんでしょうか?」 志狼は顔をしかめた。 「祖父から引き継いだ店なんですが、私には料理の才能は無くて、高杉さん頼みの店なんです。頼りないかもしれませんが、玉山くんのフォローはきっちりやりますので」 頭を下げたままの竹田に、志狼は唸るような声を出して 「……週末だけだぞ」と、低く告げた。 本音は今すぐにでも辞めさせたい。 だが、祖父から引き継いだ店を必死で切り盛りしている竹田に心を動かされたのだ。 「ありがとうございます!」 ガバっと顔を上げて、竹田が人の良い笑みを見せた。 「これ。玉山くんのカバンと服ね」 「あ。ありがとうございます」 「じゃあ、金曜日お願いね。明日は加護くんに出てもらうから大丈夫だよ」 鉄平達は竹田と別れてタクシーに乗った。 「しろう。ありがとう」 「……ああ」 鉄平はすっかり「お仕置き」の事を忘れて、ホッとしてシートに背を委ねた。
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