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Ⅳ:1

 グルグルと回る混沌とした世界の中に、眩しい光が見えた気がした。  その途端、柔らかい温もりが唇に触れる。  それはジワジワと…でも確実に俺の中の何かを正常に戻していく。  全身に纏わりついてたドロついた物はいつの間にかその拘束力を失くし、重たくて仕方なかった瞼が自然と持ち上がった。 「気が付いた? 具合はどう?」  視界に突然入って来た“美しいモノ”に目が眩む。何故俺の部屋に? とか、未だ不完全ではあるものの、あれ程辛かった体の不調が薄れている事とか…兎に角色んな謎が一気に俺を襲いパニックになる。  だがそんな事を気にもしない“美しいモノ”は、パニくる俺を無視して軽々と俺の体を持ち上げた。 「栗、原さ…なん、で?」 「電話してきたでしょう」 「え…? でも…」 「もう良いから黙って」  何も持っていないみたいに楽々と歩くそのスピードに驚きながらも大人しくしていると、俺は風呂場へと連れて行かれた。  いつの間に準備したのか、普段殆んど使わないバスタブに湯が張られている。 「悪いけど服のまま入れるよ」  栗原さんは返事を待つことなく、俺の体を張られた湯の中にゆっくりと沈めた。 「ぁ…」 「熱くない?」 「だい…じょうぶ、です」  普通よりも随分と温めに設定してあるのだろうそのお湯は、しかし冷え切った俺の体には丁度いい。俺の体の事を考えられたその熱過ぎず、冷た過ぎずの温度がやけに優しく感じた。思わずまた、目から涙が落ちる。 「…こっち向いて」  俯き下がった俺の顎を栗原さんの指が掬い上げる。そしてそのまま、俺は彼に唇を重ねられた。  いつもの様な、抵抗する俺を押さえつける触れ合いではなく、幼い子供を諭すような触れ合いを何度か繰り返した。そしてやがて、ゆっくりと割り開かれた隙間から栗原さんの舌が入り込む。 「んっ……ぁ…ん、は、ん…んっ」  とろり、とろりと注ぎ込まれるその液体を嚥下する度に、またあの感覚が全身を覆う。腐食しかけていた体が、奥深くから浄化されていくあの感覚だ。  しかしそれよりも、いつもと違う舌の絡められ方に背中がゾクゾクと痺れ、俺は思わず栗原さんの手に自身の手を重ね縋り付いた。 「はっ、あっ…ん! んっ…んふっ、ふっ」  手は振りはらわれることなく重なったまま、栗原さんのもう片方の手で頬と首筋を固定され更に侵入が深まった。 (なに、コレ…)  僅かに残っていた頭痛や吐き気はあっという間に去って、ただ気持ち良さだけが残る。  頭の中は酸欠みたいにクラクラして、快楽に近いそれがまた俺の意識を持って行きかけた。でも、 「ンはっ!」  その重なりは突然解除されてしまった。直ぐに切り替えられない俺は、とろみの付いた瞳で栗原さんを見上げる。栗原さんも、俺をジッと見下ろしていた。  だがその表情は何を示しているのか分からない、いつも通りの無表情だ。 「はっ…はっ…、?」  栗原さんは息を整えようとする俺の目の下と頬を一度だけするりと撫でると、固定していた両手を顔から外し俺の脇の下へ移動させた。 「もう良いね。これ以上は湯がぬるいから風邪をひく」  ザバッと湯から持ち上げられた体は再び簡単に浴室から連れ出された。  そしてびしょ濡れの服を栗原さんに脱がされそうになって漸く、俺は普段通りの叫び声を上げた。 「じぶっ! 自分で脱げるからぁあっ!!!」

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