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番外編:1

 錆も、剥げ落ちたところも、塗りムラも無い綺麗な扉の前で尻込みしていた。  今まで何度か訪れくぐったことのあるこの扉も、今日はなんだか重々しい雰囲気が取り巻いていて近づき難い。 「何やってんだ?」 「あ…」  ひとりでモヤモヤと考え事をしていたら、いつの間にか扉は開かれひとりの男性が顔を覗かせていた。 「寒かったろ、早く中に入って」 「あ、す、すんません。お邪魔します」  カチコチに躰を固くした俺を振り返り、笑う。 「今日からは〝ただいま〟って言うんだよ」  誰も訪れることのない、物寂しいアパートとサヨナラしたのは数日前のこと。それから少しだけ、久しぶりに実家に戻った。  相変わらず両親との会話はなく、色々あった結果、結局追い出される形で実家を後にしたのがさっきのことだ。 「ご両親には話せた?」  返事の代わりに視線を落とした俺を見て、その人…栗原さんは、短く笑って俺の頭を優しく撫でた。 「話せただけでも進歩だ」 「…ですかね」 「ああ」  撫でる栗原さんの手に、自身の手を重ねる。 「俺、栗原さんが居てくれたらそれで良い」  栗原さんは何も言わず、重ねた俺の手を握り返した。  俺は今日から、住み慣れたあの街を離れ、この優しい人と一緒に暮らす。  俺はセンチネルで、彼はガイド。  最初の出会いは最悪で、互いに分厚い壁を作って接していた。だけどいつの間にか彼からその壁が消えていて、そして俺の壁までブチ壊しに来た。  抵抗はした。したけど…結局俺も一人は寂しくて、その寂しさに気付いた栗原さんに俺は、心も躰も救われ…今に至る。  彼も過去に酷い傷を負っていた。その話を俺にしてくれた時、不思議と彼を助けたいと、救いたいと思った。救われているのは俺の方なのに、何故かそう思ったのだ。  一緒にいるだけで心が温まる気がした。触れられれば恥ずかしくて、でも嬉しくて。躰は自然と熱くなって、持て余した熱を彼にぶつければ、それは難なく受け止められた。  何度もキスをして、何度も触れ合ってきたけど…俺たちはまだ、最後の一線を越えられずにいる。  それは全て、俺が悪いんだけど…。

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