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番外編:3

「あっ、あの…」 「急かすつもりじゃなかったんだけど…久しぶりに会えたから、ちょっと興奮してたみたいだ。悪かったな、怖かっただろ?」 「ちが…、栗原さん俺はっ、」 「大丈夫、分かってるよ」  困ったような笑みを向ける。躰の位置を少し戻して、俺のこめかみにそっと…キスを落とした。その優しい触れ方が、俺の胸を余計に締め付けた。 「引越しと同棲祝いに、夕食は俺が何か作るから買い物に行こうか」 「え、栗原さんが作ってくれるんすか?」 「外食がいい?」 「いや…」 「俺は、今夜はふたりきりが良いんだけど」  カッと赤らめた俺の頬を、栗原さんがそっと撫でた。 「良かった、俺だけじゃなくて」 「いつから心、読めるようになったんすか」 「残念ながら、相変わらず俺に第六感はないよ。でも君のことなら、表情だけで良くわかる」 「悪かったな! 分かりやすくて!」 「ははっ」  笑って立ち上がると、そのまま俺に背を向けた。 「上着取ってくるから、ちょっと待ってて」  寝室を出て行く彼の後ろ姿を黙って見送ってから、静かに溜め息を吐いた。  決して俺は、栗原さんを拒みたかったワケじゃない。そうじゃないのに、どうしても躰が触れ合いを受け入れない。そう…あの人に襲われた、あの日から。  俺がバイトしていたコンビニの店長。  男らしくて逞しくて、俺に無いものを沢山持っている人だった。  誰も必要としてくれていない孤独な世界の中で、唯一俺を必要としてくれる人だと信じていた。好かれていると、思っていた。だけど違っていた。  センチネルとしての能力が上がったその時、俺はあの人の心の中を聞いてしまった。 (何がセンチネルだよ気持ち悪ぃ) (ただのポンコツじゃねぇか、使えねぇ) (ふざけんな、役立たずのフリーター野郎)  言葉にされない暴言に、俺の心は一瞬でバリバリにひび割れて、襲われ、粉々に砕け散った。  あの日確かに栗原さんに救い出されたはずなのに、俺の躰は下半身に受ける刺激を拒絶する。下着の中に入ってくる手の感触を…忘れる事ができないのだ。  思い出したくなんてないのに、記憶は一瞬でフラッシュバックして、気付けば目の前の栗原さんを押しのけている。そんなことが何度も続いて、あれから二ヶ月経つ今でも俺たちは先に進めずにいる。 「このままじゃ…捨てられるかも」  俺も男だから、少なからず分かるつもりでいる。寸止め状態が、どれほどキツいかを。  実際自分の躰の欲だって最近持て余し始めている。本当は、もっとずっと深くまで繋がりたいし、その奥で彼の性を受け止め、内側から俺を浄化して欲しい。  そんな想いが中々伝わらないのがもどかしくて、辛かった。

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