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番外編:4
◇
外の空気はキンと冷たく寒かった。
何気ない話をしながら歩く商店街は、先ほど足を踏み入れた広いマンションよりもずっと身近に感じる場所で、思わずホッと息をつく。
「何にしようか、何が食べたい?」
「得意料理とかあるんですか?」
「大抵のものは作れるよ、独り身長いからね」
そう言って俺を見下ろすその顔は、どうして独身なんだろうと疑問しか浮かばないほど出来が良い。
少し長めの髪がよく似合う、甘いマスク。色白なのに貧弱には見えない、服の上からも分かるしっかりと鍛えられた肉体。同じ男の俺から見たって魅力的なんだから、女性からみれば生唾ものの優良物件だろう。
「肉…が食いたいです」
「肉か」
その美しい顔に見蕩れながらぼんやりと答えたその先で、誰かの悲鳴が聞こえた。
「なに…?」
数十メートル離れた辺りに、人だかりができている。その輪の中から誰かが叫んだ。
「誰かっ! ガイドさんはいませんかっ!!」
は、とひと呼吸するよりも早く隣から栗原さんが駆け出した。釣られるようにして、俺もその後ろを追った。
「どうされました」
「あなた、ガイドさん?」
「そうです」
「彼女、多分センチネルで」
「倒れたんですね…大丈夫ですか?」
栗原さんがしゃがみこんだその足元に、俺よりも少し若いだろう女性がぐったりと倒れ込んでいた。
「すみません、腕に触れます」
言うが早いか、栗原さんは彼女の細く白い手首を掴んだ。それから、数秒で状況は変わり始めた。
青白かった女性の顔に血の気が段々と戻り、握りしめている腕に力が戻って来た。まるで癒しを求めるかのように、自身の腕を握る栗原さんの手にもう片方の手を重ねしっかりと握る。
やがて瞳を開けるまで回復し、倒れていた躰を支えられながら起こすことができた。ここまで、数分の出来事だった。
「気分はどうですか」
「あ…あの、驚く程良くなりました」
彼を見上げるその瞳に、嫌な予感がした。それは、大きな期待を込めた瞳だったから。
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