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第41話

ゲーム?この世界の事を知っているのか、それとも別の意味の事? 彼の正体は何者なのか、何故今そんな事を言う? 騎士さんはこちらを振り返った。 一緒にいた時間は短かったが見た事がない顔だった。 いつも無表情で表情を変えた事はなかった…ちょっと驚いた時ぐらいだろう。 …それが、今…笑顔だった…美しいのになにか歪んだ笑みに思えた。 「…アルト様はさすがです、シグナム様の命を忠実に実行して」 「………え?」 シグナム様の命…?何の話だ? 固まる俺に騎士さんはトーマに向き直りナイフを向けた。 考えてる暇はない、騎士さんを止めなくてはトーマが怪我をする。 騎士さんの腕を掴み止めるように言ったら騎士さんは困ったような顔をしていた。 なにが起きてるか分からない、ただ…彼を止めなくてはとんでもない事になる。 騎士さんは「もういいんですよ」と優しく声を掛けた。 「アルト様はこの男を油断させて私を屋敷に侵入させるのが命だったのですからもう演技はよしてください」 「…な、に言って…」 「姫を部屋に招いたのは賊に襲われたからだ、姫の意思はなかった」 「賊、ですか…彼らも迫真の演技でしたね…アルト様はとても自己犠牲が強く、シグナムのために自ら薬を受け入れたんです」 違う、もし本当にあの賊がシグナム家と繋がっていても俺は知らなかった。 それにトーマがあの場所に行くのは偶然だった筈だ。 トーマもそう言った、しかし被せるように「騎士団長の見回りくらい計算内です」と答えた。 何故騎士さんはそんな嘘を付くんだ? 外が騒がしくなる、きっと窓ガラスが割れた音で誰かが異変に気付いたのだろう。 トーマは下を向き、顔色は分からないが小さく呟いた。 「なんで姫が、シグナム家と繋がりがあるんだ?使用人の息子とかだからか?」 「…いいえ、アルト様は」 「ダメッ!やめてっ!!」 「シグナム様と血が繋がった親子だからですよ、アルト・シグナムで調べれば分かる事です」 俺がずっと隠してきた事を簡単にバラされた。 これじゃあまるで、トーマを殺すためにトーマに近付いたみたいじゃないか。 「思ったより目立ちましたね、行きましょう」と俺の腰を掴み担がれる。 なにか言わなきゃいけないが、俺がシグナムの息子なのは事実だ。 けど、薬の話は全く違うからそれだけは言わなきゃいけない。 騎士さんが割れた窓に身を乗り出していて、俺は口を開けたが声にはならなかった。 トーマがこちらを見ていた。 悲しみと疑いの眼差しだった。 また余計な事を言ったらトーマはどんどん信じられなくなると思った。 涙が溢れてくる、辛そうなトーマが遠ざかり俺の視界がぼやける。 もう、優しく笑ってくれないような気がする。 そりゃあそうだ、騎士さんの話は説得力がある。 俺は何故襲われたか教えなかった…それがいけなかった…シグナムの名前だけすぐに言っておけば、きっとリカルド達みたいに受け入れてくれてたかもしれないのに… バカだ、本当に……トーマに隠し事なんてしなきゃ良かった…気付くのが遅すぎた。 森の真ん中で乱暴に下ろされて、擦りむいた膝を庇いながら立つ。 騎士さんは何処かに行こうとしていた。 「貴方は誰なんですか?なんで、あんな嘘を…」 「……」 騎士さんは立ち止まった。 てっきり無視されるのかと思っていたから驚いた。 ゆっくりと近付いてくるのを見て怖かったが話を聞かなきゃいけないと思った。 俺の前で立ち止まり、俺を見ていた。 なんだろう…この胸がざわつく気持ちは… 騎士さんの名前を知らない、父が護衛に付けた人…それしか知らない。 「俺は黒龍の使い手、貴様達を根絶やしにする…さぞ悔しいだろ?守る姫がいない弱い虫けら共が」 「……っ!?」 無表情で字を読むように棒読みで言われたセリフを俺は知っていた。 しかし、でも…なんで…あり得ない。

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