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第42話
俺と騎士さんの間に冷たい風が吹き荒れる。
この人は、もしかして…でも…
まだ信じられなくて下を向く。
あのセリフを知っているという事は少なくともゲーム内容を知っている事になる。
17年この世界にいるが、ゲームの存在を知っている人は一人もいなかった。
……騎士さんは静かに口にした。
「俺の名前はアルト・シグナム、本物のな」
「……本物」
騎士さんが言ったセリフはゲームで俺が死ぬ前、ヒロインを誘拐してトーマを挑発した時のセリフだ。
トーマは結果的にヒロインを助けだし俺と姉を殺した。
彼が俺というのは本当のような気がした。
しかし、ゲームとはビジュアルが違う。
俺の容姿に近いのは目の前の彼ではなく自分だ。
俺の容姿は美人な姉と違い平凡な容姿な筈だ。
彼は美しい容姿の青年だ、年齢も合わない。
俺は17歳で死んだ筈なのに…
「貴方が本物なら俺はいったい…」
「お前は本来ならゲームに登場しないモブだった、だけど…この世界にバグが生まれた」
「………バグ?」
「アルト・シグナムとして生まれてしまい、前世の記憶を持ちこの世界を破壊しようとする異端児だ」
…異端児、自分が…
確かにゲームのアルト・シグナムとは異なる事があった。
ランクだって魔力なしだし、一般学校に通ってるし、そして友達も出来てトーマとも出会った。
考えれば考えるほどゲームのアルト・シグナムと自分は違った。
それは偶然だと思っていた、けど…全て自分がアルト・シグナムじゃなかったとしたら?
騎士さんを見ると表情を変えずに俺に近付き俺の頬を撫でて顎を掴み目線を合わせる。
「俺はゲームを正しく導くために二人目のアルト・シグナムとしてお前より先に生まれた、お前はトーマ・ラグナロクに殺される…その未来を変えないために」
「………運命を変える事は?」
「やってみればいい、お前がどう抗っても俺が正す…死ぬ運命からは逃れられない」
騎士さんは手を離し、俺に背を向けて歩き出した。
自分は本来ゲームにいなかった人物で、彼の居場所を奪ったんだ。
…そんな自分に生きる価値はあるのだろうか。
もう、何も分からなくなった。
トーマにあんな事を言ったのはきっとトーマに不信感を植え付けて自分を敵としてゲームのように殺すように誘導したからだ。
トーマの最後のあの顔は裏切られたと思った顔のように思えた。
トーマに殺されるならいいのかも…と思えてきた。
お願いすれば姉は殺さないでくれるだろうか。
…少し一人で考えたい。
木に寄りかかり空を見る。
雲っていた、雨が降りそうだ。
濡れたら風邪引いてしまうだろうか。
ゴロゴロと鳴っている、本格的にヤバそうだ。
立ち上がると頭に冷たいなにかが落ちたと思ったらざーっと雨が本格的に降ってしまった。
早く雨宿りしなきゃと思うが足が重くその場から動けなくなった。
こんなに雨が降っていたら泣いても誰も分からないよね。
…ゲームから外れた自分を気にする人なんていないかもしれないけど…
家族だけじゃなく、ゲームにも必要とされていない存在だったんだ。
もう、自分がどうしたらいいか分からない。
下を向いていると影が見えた。
他の地面は雨を吸収して水溜まりが揺れていたが自分のところだけ雨が止んだようだった。
不思議に思い顔を上げる。
「…風邪引いちゃうよ?」
偽物の自分には眩しすぎるほどの笑みを浮かべていた少女が傘を差してくれた。
後ろには護衛の金髪の騎士がいた。
ゲームでは立ち絵がないから分からなかったが、こんなに可愛い子だったんだなと笑う。
このゲームのヒロインであるリンディと騎士副団長のノエルだ。
何故こんな森の中にいるか分からないが、ヒロインには言いたい事があった。
姉に気をつけて…とかいろいろ…
「あのっ!俺…」
「リンディ様行きましょう、こんなところで話してたら風邪を引いてしまいます」
「あっ、そうだね…貴方も」
リンディに手を握られ暖かな体温を感じた。
ゲームと同じ優しい子だ、彼女には傷付いてほしくない。
騎士さんはゲーム通りにするために彼女に危害を加える危険性がある。
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