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第63話※トーマ視点
実家に帰り、母はこの時を楽しみにしていたのか夕飯をはりきって作って待っていたようで玄関から良いにおいがする。
さっき食べたとは言いづらく母の久々の手料理を食べようとリビングに向かった。
俺の部屋はそのままにしているらしく、子供部屋だが寝に帰るだけだから十分だった。
荷物と上着をリビングの隅に置き、椅子に座る。
周りを見たが父はいないようだ。
部屋にいるのか、それとも…
いそいそと次々と料理をテーブルに並べる母を見て何気なく聞くように口を開いた。
「…母さん、親父は?」
「お父さんは出かけたわよ、旧友と飲みにいくみたいで帰りは朝方かしら?そういえばトーマはもうお酒飲めるのよね」
ニコニコと笑う母に苦笑いする。
確かに成人しているから酒は飲めるし付き合いで何度か飲んだ事はある。
酒豪の父の血を引いているからか俺も滅多に酔わない。
しかし、母が思っている事は実現しないだろう…母には悪いが…
全ての家族の父と息子が酒を交わすわけがない。
特に俺のような父を嫌っている息子は特に…
和解すればその可能性はあるが、もしかしたら父を捕まえなくてはならないかもしれない今…和解の道は遠いだろう。
…父が更正したら、そんな日が来るかもしれないな。
母に酒を出されたが明日は早いからと断った。
酒を飲んで熟睡なんてしたら父を監視するチャンスを逃してしまう。
父が何処に行ったのか気になるが、いないなら好都合だと思った。
夕飯を食べ終わり、もう遅いから寝ると食器を片す母に言った。
母は息子が帰ってきたのがよほど嬉しかったのかずっとニコニコ笑っていた。
上着と荷物を持ち、リビングから出て階段を上る。
ゆっくり実家を懐かしみたいがそんな暇はない。
父が帰ってくるまえに早くしなくては…
自室のドアを開けて上着と荷物を放り投げてすぐに自室を後にした。
足が向く先は勿論父の部屋だった。
誰もいない静かな廊下を足音だけが響く。
父の部屋は当然鍵が掛かっているだろう。
鍵は父しか持っていない、スペアもない。
かなりプライバシーが厳重に守られている。
鍵を壊す事は簡単だ、しかしそれだと俺が入った事がバレてしまう。
どうにかバレずに侵入できないものか悩む。
ノエルがいれば開けられるだろうが、今ノエルを呼んでも時間が掛かりすぎるし…二度とこんなチャンスはないだろう。
それに鍵を開ける事に成功しても鍵を掛ける事が出来なきゃ意味がない。
悩んでいたら、足音が響くのが聞こえた。
洗い物を終えた母が近付いてくる事に気付きとっさに近くにあった部屋に滑り込むように入った。
こちらには鍵が掛かってなくて助かった、暗くて少々埃っぽくて手で口と鼻を押さえた。
この部屋は、何処だったか…もしかしたら来たことがない部屋なのかもしれない。
廊下を母が歩く音がやたら大きく響いたと思ったら何処かの部屋に入るドアの音がして再び静かな空間になる。
自分の部屋に戻ったのだろう。
俺は寝ると母に言ったから俺の部屋には来ないだろう。
母はそういう人だ。
手探りで壁に触り灯りのスイッチを探す。
突起物に手が触れ押すとパチッと音がした。
真っ暗で何も見えなかった空間を灯りで照らされた。
その部屋は壁一面に本が並ばれている書斎だった。
しかし長らく使われていなかったのか本には埃が積もっていた。
少し歩くだけで埃が舞い咳き込む。
早く出た方がいい。
そう思い部屋のドアノブを掴み、ふと本棚と壁の間にに僅かな隙間がある事に気がついた。
普段なら気にならないくらいの小さなものだがその隙間がある壁の向こう側は父の部屋で気になった。
今廊下に戻っても鍵が開けられないんじゃ意味がない。
ささやかでもいい、なにか父の部屋に入れる方法がないか探したかった。
ドアノブから手を離して本棚の前まで歩く。
本棚に触れて横に押す。
分厚い本が並べられた本棚はとても重かった。
思いっきり力を振り絞り動かす。
少しずつだが動いている、大丈夫…イケる!
本棚を端に移動させてため息を吐く。
そして本棚があった場所を見て驚いた。
父の部屋と隣の部屋を隔てる壁にはこんなものがあったのか、知らなかった。
埃の積もり具合からしてきっと両親も忘れているのだろう。
俺の目の前にあったのは古びた暖炉だった。
もう何十年も忘れられ使われなくなった暖炉が寂しくそこにあった。
暖炉の中に入ると、上に繋がっていた。
このまま上に上ると煙突から出るだろう。
暖炉から父の部屋には行けそうになさそうだ。
暖炉から出て少し汚れてしまった服を軽く叩き上を見た。
さっきは本棚で見えなかったそこが見えていた。
暖炉のすぐ真横に通気口があった。
ギリギリ俺一人入れるぐらいの大きなものだ、これならもしかして父の部屋に繋がってるかもしれない。
通気口の蓋は錆び付いていてびくともしなかった。
通気口の蓋なら最悪壊れていても気に止めない可能性がある。
父の行動を探るまでの短い期間だ、そのくらいなら大丈夫だろう。
周りを見渡し使えそうなものを探す。
鉄の棒が暖炉の中からはみ出しているのを見つけて取り出す。
灰をかき回すために使ったものだろう、丈夫そうだしちょうど良かった。
通気口の鉄格子に引っかけて思いっきり引き壊した。
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