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第65話※トーマ視点

とりあえず通信の会話からして今回が初めてではなさそうだ。 きっと前からこんな事をしていたのだろう。 これだけでも十分な犯罪だ。 …父を捕まえる必要がありそうだ。 書斎を出て風呂に入るために一度自室に戻る。 父の決定的瞬間を押さえれば言い逃れは出来ないだろう。 何処で待ち合わせだろうか、先回り出来たら楽だが通信の相手が分からないんじゃ何処で会うか分からない。 もしかしたら国内に別のスパイがいてソイツに渡す場合もある。 ……相手の正体が分からない。 着替えを持ち風呂に向かった。 一度さっぱりして整理をしよう。 近い内に父は必ずなにか行動を起こすだろう。 気を引きしめて父を見張らなくては… 明日、ノエルにも伝えよう…他人の考えも聞いておきたい。 脱衣場で服を脱いで風呂に入る。 すすで汚れた体を暖かいお湯で洗い流す。 十分すぎる成果が得られて良かった……これも姫のおかげだ。 …それにしても、何故姫は父の事を知っていたんだ?騎士団でも知らなかった情報だったのに… もしかしてシグナム家も父の事を知ってるのか? だとしたら父を何故泳がせている?騎士団を嫌っているシグナム家なら騎士団に言う事はないだろう。 しかし、それだけではないのがシグナム家だ。 なにか企みを感じてしまう、そして姫はその企みを俺に話す事により阻止しようと考えている気がする。 もし俺の考えが当たっているとなるとマズイ事になるかもしれない。 姫とシグナム家の考えは違う事になり、姫は俺に話した事によりシグナム家を裏切った事になるのではないか? 最終的には姫をシグナム家から助け出す予定だが、もしまだ手が届かない今の段階でシグナム家に裏切り者だと気付かれたらきっと姫は最悪家族に殺されてしまう。 上手く隠していればいいが、俺には今姫がどうなっているのか分からない。 顔が見たい、会いたい…無事でいてくれ。 もう少し、もう少ししたら…必ず会いに行くから…待っていてくれ。 お湯を止める、髪を伝いぽつぽつと水滴がタイルに落ちる。 俺の力をコントロール出来ればいいのに… なんでこんな魔力を授かってしまったんだ。 瞳を閉じる。 耳に聞こえるのは水滴の音と昔の記憶だった。 俺が初めて力を使ったのは6歳の頃だった。 当時は自分の力を理解していなくて魔法学園に通った時に初めて力を発揮した。 魔法学園には必須科目として魔法の授業がある。 周りは自分のランクに合った魔力を使っていた。 火を出したり水を出したり何だか母に連れられて見に行ったサーカスのようでワクワクしていた。 自分も使ってみたい、あんな風に操れたらどんなに楽しいだろうか。 俺も授業で習った魔力の使い方を思い出す。 手のひらに水が流れるイメージをして、それを一気に噴水のように溢れ出すイメージ。 そこから俺の記憶はなかった。 目が覚めたら医務室のベッドで横になっていた。 天井をジッと眺めていた。 担任と母が話していたがまだ寝足りない頭ではよく分からなかった。 後から聞かされた話によると俺は突然強く発光したと思ったら倒れたそうだ。 当時は魔力を初めて使ったから一週間ぐらい寝ていたそうだ。 初めてだったから体がついていけなかったのだと母は言ってこのだるい眠気の意味を理解せずそう思っていた。 それから何度も魔力を使う度に眠気を繰り返していた。 体が慣れたのか3日寝れば治っていたが、可笑しいとは思う。 ……俺は普通とは何処か違うと子供ながらに感じていた。 ランクの話ではなく、魔力を使うと眠くなる病気かなにかだと思った。 そして父に俺の魔力は0と100しかない事を教わった。 つまり中間の力が出せないのだと… 例えるなら取手のない蛇口だ。 捻る事が出来ないから空になるまで水を出し続ける。 そして空になったら一気に疲れが押し寄せて眠るのだと教えてもらった。 それから俺は魔法の授業は免除された。 デメリットは魔力を使うと眠くなる事だがメリットは普通の魔法使いより強力な力を出せると父は少々興奮気味で言った。 強力な力が出せたって周りも巻き込む力だ、俺にとってはデメリットしかなかった。 周りが羨ましかった…どんどん力をコントロール出来て成長する自分を見て嬉しそうだった。 俺は最初から大人顔負けの力があり、魔力を使うと皆を怖がらせてしまうから成長する自分なんて見れなくていつも隅にいた。 隣にいたのはノエルだけだった。 ノエルも天才と呼ばれていて最初から魔力のコントロールが出来ていた。 そしていつもつまんなそうにしている俺が気になっていたと話しかけてきた。 ノエルの第一印象は軽いなと思い、最初は苦手だった。 でも話し相手がいなくて暇してたからノエルのマシンガントークの相手をしていたら大好きな子の話までするほどの友情を育んでいた。 今俺が力を騎士団のために使えるのは背中に頼れる親友がいるからだろう。 ノエルがいなかったらきっと魔力を使う事に怯えて一生使わなかったかもしれない…騎士団に入っても… ノエルだけじゃない、姫の存在も大きかった。 姫がゼロの魔法使いとかを抜きにして姫が欠けてても俺は魔力を使わなかっただろう。 俺が寝ていたら遠慮なく起こしてくれるあの時の姫がいたから、今の俺がいる。 俺は二人に支えられて生きている。 部下が居てもいつも孤独だった父とは違う、俺は恵まれているんだ。 この力がなかったらきっと俺はもっと早くに姫を助けられたかもしれない。 ……でも、そんな事を言っても俺の魔力コントロールが出来ないのは変わらない。 ならば受け入れるしかない、この力を使って大切な人を守ろう。 魔力に怯えていたあの頃の子供じゃない、今はいろんなものを背負っているんだ。 またあの時のように、姫と笑い合いたい…そのためにも姫が必死に俺に伝えようとしてくれていた父の情報を無駄には出来ない。 必ず父を捕まえて、そこにもしシグナム家がいるなら… ギュッと拳を握る。 タイムリミットは少しずつ近付いていった。

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