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第67話※トーマ視点
それは数時間前にさかのぼる。
一日目はいろいろと観察していたが特に目立った動きもなく、相変わらずぐうたらしていた。
見回りの時に父の部屋で見たあの資料をノエルにも言った。
ノエルは驚いていたが俺が嘘をつく奴じゃないと思ったのか信じてくれた。
俺達はきっと、とんでもない相手と戦おうとしているのかもしれない。
……それでも俺は正義を貫くために悪を許さない。
そしてその日はすぐにやって来た。
その日の朝、父はいつもより早起きだった。
実家に帰ってきてから父と話はしていない…するつもりはない。
単純に仲が悪いのもあるが、犯罪者と仲良く談笑なんて出来るわけがない。
相手を油断させる作戦だとしてもごめんだ。
俺は父が部屋を出てくるより先に母に無理言って朝食を早めに食べた。
そして早めに仕事に行くと家を出た。
勿論仕事は仕事だが、父の尾行をするために鉢植えの傍で身を隠す。
ノエルには伝書鳩で知らせたからすぐに合流するだろう。
通信機があれば良いのだが、通信機はこの国ではかなり貴重なもので実家には父の部屋にしかないから連絡は出来ない…そもそもノエルは通信機を持っていない。
だからこうした原始的な方法しか連絡手段がない。
父が部屋から出ていき、手元を植木の隙間から確認する。
あの茶色い封筒を握られていて、やはり父は他国に情報を売りに行く予定なのか。
一定の距離を保ち父に着いていく。
何処で待ち合わせだ?こんなに朝早かったら店というわけではなさそうだ。
父を見失わない程度に離れていたら、俺の肩を叩く人物がいた。
振り返らなくても誰だが分かるから目線は父から離れない。
「…どうだ?様子は」
「まだ目的地に向かう途中だろう、あの茶色い封筒が例のやつだ」
「……なるほど」
ノエルと合流して二人で追いかける。
父はまだ気付いていないのか、それとも気付いていて俺達を泳がせているのか分からない。
ただ一度もこちらを振り返らずに歩き続けていた。
俺達も緊張しながら建物の影に隠れつつ進む。
父が入ったのは森の中だった。
なるほど、国境線で待ち合わせなのか。
この先にある国境線は処刑国で有名なフェランド王国だ。
よりにもよってあんな危ない国に情報を渡したのか。
フェランド王国は毎日血飛沫が絶えない危ない国だ。
第一王子のレイズが現在の国王として国を動かしている。
現国王はいるが病で倒れたとかで王子が国王の代わりをしていると聞いた。
元々王子は騎士団長でもあり兼用しているらしい。
気に入らない奴はすぐに死刑にする慈悲の欠片もない残虐非道の男として有名だ。
レイズに国王が変わってから王都とはまだ関わっていないが元祖死刑王と呼ばれた現国王の時、王都に攻め込もうとしたフェランド王国騎士団がやって来て父達騎士団が追い払ったという。
今は実際どうなったか怪しいものだ。
本当にフェランド王国騎士団を力で追い払っていたら今、その敵国に通信機でペコペコ頭を下げて情報を売り渡すか?
金のためとはいえ普通出来るだろうか?
フェランド王国騎士団を追い払ったのは国境線で戦ったと言い伝えられているが、実際に見た国民はいない。
巻き込まれたくないから当然だ、そして父達と戦った騎士団…
今はもう誰もいなかった。
そう、父があの魔剣で殺したんだ。
まさか、証拠隠滅なのか?
残った騎士団の奴らは国に残っていた騎士団員のみだ。
考えてしまう……もしかして、あの時…取引をしたのではないのか?
戦ったわけではなく、この王都の情報を売る代わりに見逃してくれと…
報酬の金は両者裏切らないための約束の金だったとしたら…
考えてもらちが明かない、とりあえず父を捕まえて全て吐かせる!
「…トーマ、なんか変だぞ?」
森の中で尾行を続けていたらノエルの声がして木の影からこっそりと父がいる方を見た。
父は立ち止まって動かなかった。
ここが待ち合わせ場所? 誰もいないしこんな中途半端な場所で待ち合わせるわけない。
そう思って父に警戒していたら父の手が光ったのが見えた。
とっさにノエルの腕を掴み木の影から出た。
父は振り返り光を放ち、俺達がいた木に魔法をぶつけた。
木は抉れて大きな音を立てて倒れた。
ノエルは状況が理解出来ず目を丸くして倒れたまま父を見た。
俺は父を睨み立ち上がった。
父の魔力ランクは俺と同じSSSだ。
そんな奴が人に向けて魔力を放出したら怪我じゃ済まされない。
……俺達を殺そうと本気で攻撃したんだ。
大剣を握り戦闘体制になる。
「ネズミがこそこそと隠れているなと思ったらトーマ、お前か」
「……お前の悪事はもう分かっている、大人しくしろ…抵抗するなら容赦はしない」
「…やってみろ、出来るものならな」
「っ!!」
父が剣を向けた、それだけなのに足に力が入らなくなる。
父の魔剣は斬りつけた相手の魔力を奪うのではなく触れなくても奪えるのか。
動けっ!俺の足!と足に力を込めるが底無し沼に落ちるように動けない。
父はそんな俺を嘲笑っていた。
しかしそんな笑みはすぐに無表情になった。
ノエルが俺の腕を引っ張り後ろに庇った。
ノエルがあの魔剣に魔力を吸われたら死んでしまうと訴えても退かなかった。
今まで見た事がない強い瞳で父を睨んでいた。
父は魔剣を向けるのを止めてまっすぐとノエルを見た。
「君は、誰だったかな?」
「ノエル・ラグドール…騎士副団長だ」
「あー、そうだったそうだった…ノエルくんね…君かぁ…トーマをこんな風に弱くしてしまったのは」
憎悪と嫌悪の瞳でノエルを見つめていた。
どういう意味か理解出来なかったがそれは一瞬の事だった。
武器を取る暇もなくすぐ目の前に父がいた。
そしてそのままノエルを殴り付けて木に激突した。
父はノエルを冷めた目で見下ろしていた。
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