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第101話
俺達がのんびり作戦を考えている間にシグナム家はこの街を落とす計画を実行するための準備を進めている。
時間は無限じゃない、あの時は俺が居たから意外と早く街が落とされたが俺はゼロの魔法使いの力をシグナム家のために使わない。
幸いあの時俺を暴走させた薬を作ったガリュー先生は俺達の味方になった。
演技には自信はないけど、俺はもうあの時みたいに一人じゃない。
それにもしあの時のように姉と和解出来たらさらに成功する確率が上がる。
それしか方法がないというのなら…
「俺を信じて、トーマ」
「…っ」
この世界を幸せにするために、俺は転生してきたんだ。
トーマの頬に触れて少し背伸びをする。
トーマの優しい匂い、俺はこの匂いが大好きなんだ。
唇を重ねる、触れるだけのキス。
トーマが俺の腰に腕を回しさらに密着してキスは深いものになる。
息が苦しくなっても離れる気はなかった。
舌を絡めて吸い付いて無我夢中でお互いを求めた。
どれくらいそうしていただろうか、名残惜しそうに唇を離す。
「…トーマ」
「アルト、俺は何処かでまた同じ事になるんじゃないかと思っていた」
トーマの気持ちは分かる、俺はゼロの魔法使い以外何の力もないZランクの魔法使いだ。
でも、生きたいって気持ちは二度死んだ記憶を持つ俺だからとても強くそう思っている。
この人と共に生きたい…
「アルトは変わったな」とトーマが微笑む、俺の大好きな笑みだ。
ちょっと寂しそうだけど嬉しい…そんな複雑な笑みだ。
俺だって成長するんだよってまた軽く口付けた。
今のはちょっと予想出来なかったみたいで目を丸くしてから照れたように笑った。
「俺の姫はいつからそんな小悪魔になったんだ?」
「へへっ、トーマ限定だけどね」
「当たり前だ」
俺とトーマは目を合わせて微笑みあった。
トーマの瞳が赤い、俺がキスをしたからかな。
じゃあきっと俺の瞳もお揃いかな。
そしてふと周りを見た。
皆何故か下を向いていた。
そういえばいた事を今さら思い出して顔を赤くした。
「イチャつくなら俺達が帰ってからにしてくれ」
苦い顔でそう言うノエルに俺同様顔を赤くして固まるリカルドにガリュー先生壁に向かって手を付いている。
グランは……え?気絶してない?
穴があったら入りたい気持ちだったのにトーマは俺を抱きしめてさらに煽っている。
とりあえず俺はただ固まっていた。
グランの作戦を聞くために俺はトーマの隣に座った。
グランが縛られているのは俺を囮にすると聞いたら暴れると判断してノエルが事前に縛って転がしといたらしい。
トーマはまだ心配なのか「やっぱり他の作戦を」とか言ってくるから俺は大丈夫だとトーマの手を握る。
「アルトくんにはシグナム家に行ってほしい、勿論まだ関係者でもあるソイツも一緒に」
そう言ったノエルはガリュー先生を指差す。
まだガリュー先生が裏切った事は俺達以外知らない筈だ。
俺一人だと不安だけど、ガリュー先生がいたら心強い。
グランは残念ながらもうシグナム家の人間ではないから騎士団として動く。
今回の計画はなるべく少人数で行うと説明された。
理由は二つある。
一つは騎士団が大勢で向かうと目立ちすぎるし、城を守る人がいなくなるとそこを襲撃されたらおしまいだ。
そしてもう一つはトーマの力だ。
トーマはとても強い力を一気に放出する、コントロールが難しく大勢で行ったらトーマの力の被害に遭う人が出てきても不思議ではない。
今回の戦いの規模はどのくらいか分からないから街の人達は一時城に避難する事になっている。
トーマが戦うのはシグナム家当主ただ一人、何も気にせず戦えたら勝率は格段に上がる。
他の騎士団はトーマの邪魔する奴らを足止め、捕縛する。
それが大まかな作戦だった。
トーマの前に父を一人だけ向かわすには俺が必要だと言った。
とても重要な仕事で失敗は許されない。
手汗を掻いたがギュッと拳を握りしめた。
「アルトくん、出来るか?君達が失敗すればシグナム家の警戒は強くなり捕まえるチャンスは失う」
「…出来ます、俺に任せて下さい」
まっすぐノエルを見てそう口にする。
ノエルは俺を見て頷いた。
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