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第102話

決行日は明日、それまでは各自休む事を伝えられ話し合いは終わった。 俺はノエルの作戦をメモした紙を眺めて復習する。 演技力も大切になってくる今回の作戦、出来るか不安だった。 でも自分から言い出したんだ、やらなきゃ…皆のために… ベッドで横になり目を閉じようとするが、なかなか寝付けない。 明日から忙しくなるって言うのに、寝不足なんてシャレにならない。 トーマはノエルと準備があるって言っていたからまだ部屋にはいない。 俺も準備を手伝えたら良かったんだけど魔道具がどうのこうの言っていて機械に詳しくないから逆に迷惑だろうかと手伝うのは止めた。 羊を数えたら本当に寝れるだろうか、数えるのに夢中で余計に寝れなくなりそうだから試した事はないけど今試す時か?と思っていたら、ガチャと部屋のドアが開いた。 控えめに覗き込むトーマの姿が隣のリビングの部屋の明かりで見えて起き上がった。 「トーマ?」 「…悪い、起こしたか?」 「ううん、寝付けなかっただけだから」 「そうか、ちょっと風に当たらないか?」 トーマの提案に頷くと部屋に入ってきた。 寝室の大きな窓を開けると風が部屋に入ってきて、涼しくて気持ちがいい。 差し伸ばされた手を掴みベッドから降りて一緒にベランダに出た。 真っ黒な夜空にキラキラと星の粒が光り輝いていて幻想的に演出していた。 「綺麗だね」と言うとトーマはただ微笑むだけだった。 トーマもきっと俺と同じように明日の作戦は緊張してるのだろう、だから緊張をほぐすために俺とここに来た…そう思った。 俺の中の真竜がトーマの事を教えてくれる、そんな不思議な感じがした。 「アルト、俺はもう迷わない…君を信じる事にした」 「…トーマ」 「だから明日の成功祈願のおまじないしてもいいか?」 トーマに見つめられ、心臓がドキドキする。 頷くと俺の手を取った。 そして自分のポケットからなにかを取り出し、俺の薬指に通した。 外にある照明に照らされたそれに釘付けになる。 トーマは俺の手の甲に口付けを落とした。 それがゲームのワンシーンと重なる。 でも今この場にいるのはリンディでもゲームのトーマでもない。 本物の俺とトーマだ。 「アルトが19歳になったら俺と結婚してくれますか?」 この世界の結婚出来る年齢は男女共に19歳からと決められている。 俺はまだ17歳だから結婚は出来ない。 でも……とトーマの手を握り返した。 生前の俺は17歳で死に恋をした事がなかった。 それがゲームの世界に転生なんて非現実的な事が起きて、トーマと出会い恋を知った。 恋って幸せばかりじゃない事の方が多くて、苦しくて悲しい事でもあった。 それは全てトーマに教えてもらった気持ちだ、俺の答えは初めから決まっている。 「こんな俺ですが、よろしくお願いします」 トーマにとびきりの笑顔を向けた。 貴方と永遠を共にしたい、俺の願いはただそれだけだ。 引き寄せられて今度は唇を重ね合わせた。 深くはない、まるで結婚式の予行練習のうな触れるだけの優しいキス。 それは俺達を強くさせるおまじないになった。 絶対に生きて帰る、この場所に…そう強く決意させた。 「やっぱりこの世界も婚約指輪は薬指なんだね、ゲームの制作者が日本人だからかな」 「…?」 「ねぇトーマ、トーマの指輪はあるの?」 「あぁ、あるよ」 「俺もトーマに付けたい」 やっぱり指輪の交換はお互いにやってこそだよなと思って言った。 トーマは後で自分でつけようと思っていたのかポケットからシンプルな金色の指輪を俺に手渡した。 俺はトーマの真似をして指輪を薬指に通す。 ギュッとお互いの手を握り合い再び誓いの口付けを交わした。 風が俺達を祝福するように優しく吹いていた。

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