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変化

 浅生が望の送り迎えをするのが当たり前になり、誠の仕事が終わるまで望の相手をしたり、三人で一緒に夕食を食べることもあった。それが遠い昔から当たり前であるかのように。そして、疑いようもなく、誠と浅生は互いを意識するようになっていた。食後に皿を洗ったはいいが、しまう場所が分からないことに気付く浅生。「貸して」そんな風に誠が浅生の手の皿に手を伸ばしたとき、指が重なった。瞬間、浅生は体の奥から湧き上がるものを感じて慌てて距離を取る。 「ぁ…」  自分が何をしたのか、混乱する浅生。顔が熱い。胸がドキドキとうるさい。それが意味する感情に気付く、それは隠さなければならないようなことなのに、でも反応してしまった。  誠が気付かなければ誤魔化しようもあったというのに、視線を真っ直ぐにこちらに向けたままの誠の表情はそれが何であるのかを理解している、そんな確信を浅生に抱かせた。  逃げなければ、そう思うけれど身体がその場所に縫い付けられたように動かない。誠の視線は年齢を重ねた余裕のようなものが伺えて、そして逃がすつもりもないのだとそんな意思も見え、でも何を考えているのか経験の浅い浅生にはうかがい知ることもできない。  一歩一歩距離を詰めて来た誠。そして、浅生の顎にそっと指を添える。 「浅生君…」  目が離せない。誠は自分を求めている、そんなせつない顔をされたら反則だと浅生は沸騰する頭でぼんやりと思った。 「ん…っ」  重なる唇。柔らかい感触に痺れるようだった。誠はその先に進みたかったが、浅生が一向に口を開かないのですぐに唇を離す。浅生はぎゅっと目を閉じて固まっている。頬は紅潮し、身体も固い。もしや嫌がっているのではと思ったが、それも少し違うようだ。 「浅生君、もしかして息止めてる?」 「っ…、な、はぁ、だって…」  言われて初めて気づいたようだ。息を荒くしながら顔を真っ赤にして視線を逸らしている。その初心な反応に、誠は思い至る。 「初めてだった?」 「……まあ、そんな感じ」  強がるようにそう言う浅生は、思えば自分よりも相当若い。色々と頼ってしまっていたから失念していたが、そういう経験が無くてもおかしくないそんな年齢なのだ。 「浅生君、私は君の事が好きなんだ」  気付いたらそう口から出ていた。 「……」  浅生は何も言わないが、言えないと言う方が正しいだろう。赤かった顔をさらに真っ赤にして自身のTシャツの裾を掴んでいる。 「約束する。君が嫌がることは絶対にしない。もし君が嫌じゃなければ僕の気持ちに答えてくれないだろうか」  誠は口に出しながら自分の気持ちの強さに驚いていた。懇願するように絞り出された言葉は、誠の中にあった本心だろう。 「…嫌じゃ、ない、です」  誠はやっとそれだけを言った。誠が自分を求めている、それを感じるともうだめだった。抑えていたものが溢れてくる。 「俺も、好きです」  浅生は泣いていた。 「……ごめんね…」 「好きなんです、あなたも、望も…」 「…………」  誠も泣いていた。なぜ泣いているのか、それはこの場にいない故人に向けての懺悔だった。 「ごめん、ごめんね、浅生君…」 「謝らないでください…っ」 「だって、君に背負わせてしまう……」  二人が関係を持つことで、誠はもちろん浅生にも宏美に対する負い目のようなものを感じさせてしまう。それが分かっているが、だからといって離れてくれとは言えない。そんな自分の弱さに打ちひしがれる誠。しかし、それに対し浅生は力強くこう言った。 「一緒に、俺にも背負わせてください」  言葉としては青いのかもしれない。けれど、それは単に若さから出た言葉というわけではなかった。そこには、浅生の覚悟、誠への誠意、まっすぐな彼の心根が込められている。  誠は浅生の導きで彼の肩に顔を埋めるとそのまましばらく声も出さずに涙を流し続けた。

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