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4-親ぎつね咳コンコン意地悪お兄さん命がけ添い寝!
ぽかぽか麗らかな春の昼下がり。
意地悪お兄さんの元に幼女風男子の九九が珍しくひとりっきりでぽてぽてやってきました。
「とと様がおねちゅでました、風邪でしゅ」
まさかあのシャァーシャァーうるさい化けもん狐がコンコン咳をするなんて想像がつかない意地悪お兄さん。
親思いの九九はそんな意地悪お兄さんを父狐のいる住処へいざないます。
山に分け入り、さらに分け入り、ぼーぼー草は頭を超えて視界は悪く、頭上でギャーギャー不気味に鳴くは名も知らぬ怪鳥、不吉に響く風切り音。
「俺のこと騙してんじゃねぇだろーな、九九?」
「きゅるん?」
「俺が罠を仕掛けたのを根に持ってて、どっかの化けもんにバックリ食わせる算段なんてこたぁねぇだろーな?」
「お前、とと様にもう食べられてるでしゅ」
憤慨する意地悪お兄さんの前で九九はぽふんと子ぎつねの姿に。
フサフサ尻尾を揺らめかせ、ぴょんぴょん駆け足となって先を急ぐので意地悪お兄さんも見失わないよう慌てて後を追います。
山の奥深くに人知れず佇む稲荷神社。
そのそばには大きな洞穴がありました。
出入り口には草木が一段とこんもり生い茂り、案内狐の九九がいなければ気づかずに通り過ぎていたでしょう。
ひんやり薄暗い洞穴の奥に親ぎつねの九はおりました。
子ぎつね九九が心配そうに駆け寄ってくっついても反応なし、グルルルルグルルルル、寝息なのか呻き声なのか、広い洞穴の隅っこで窮屈そうに巨躯を丸めて腹底から重低音を奏で、じっとしています。
立派な三角耳はぺったんこ、毛並みもどこか力なく萎れ、いつもは鋭い眼光翳す切れ長な大きな目は瞼に遮られっぱなし。
「なんだよ、マジでやべぇんじゃねーのか?」
ひんやり洞穴に首を窄めた意地悪お兄さん、本当に具合が悪そうな九に珍しく神妙な面持ち、きゅるきゅる鳴く九九に尋ねます。
「お前、とと様のそばいろ、でしゅ」
またぽふんと幼女風男子に戻った九九にそう言われると、意地悪お兄さん、板についたしかめっ面にあっという間に戻りました。
「俺が何してやれるっつぅんだ? 化けもんの看病なんざできねぇぞ」
「そばいろ、でしゅ」
「さっきから何気に命令形だよな、あいつの前では狐のくせに猫かぶりなんだな、お前」
「っち」
またご丁寧に憤慨している意地悪お兄さんに九九は言いました。
「お前がそばいた方がとと様は嬉しいんでしゅ」
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