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いつの間に狐火の点った松明。 洞穴に満ちた暗闇が払われて不思議な青白い炎がゆらゆら揺らめいています。 「おいで」 消毒を終えた九が意地悪お兄さんを誘います。 意地悪お兄さんはこれまた素直に誘いに乗じました。 自分の手をとったままでいる九のお膝に乗っかって、大胆大接近、まるで熱々恋人同士のようです。 「僕が怖くなかった?」 「そりゃあ、な」 「じゃあどうして逃げなかったの?」 「俺如きに見せないんじゃなかったのかよ?」 質問に質問で返されて九はさも愉快そうに笑いました。 「そうだね。君如きに見せるつもりなんてなかったのだけれど」 ああ、俺は化かされてる。 狐のまやかしに両目をやられたみたいだ。 九から目が離せない。 「君に心を許した。そんなところかな」 そう囁いて九は意地悪お兄さんに口づけました。 冷えた体を暖めようと抱きしめて、もっと胸と胸を重ね、一寸の隔たりも許しません。 「ン……っ」 いつも面をつけている九にこんなにも長くゆっくり口づけられるのは初めてな意地悪お兄さん。 情けない話、あんまりにも疼く胸に思わず泣いてしまいそうでした。 満開の夜桜にも勝る妖しげ綺麗な九。 下手すれば見る者の心を壊し兼ねません。 「ぅ……っンン……ぅぅっ」 「……すまないね……ごめんね」 「っぁ……ッあ……ここ、の……」 「怖い思いをさせて。痛かったろうに。でも、それでも。君はここに残ってくれたんだね」 「……俺……寒ぃのに……」 「うん?」 「……熱いんだよ……九……」 意地悪お兄さんも自ら妖狐に抱きついて雪色の肌の温もりに溺れます。 「僕が欲しいの?」 ぐっと口を噤んだ意地悪お兄さんを覗き込んで九は花開くように微笑みました。 「いいよ。たくさんあげる」

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