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「ひっ」
いや~な悪寒がして背筋をゾクリさせた意地悪お兄さん。
とりあえず振り返って、障子の向こう、燦々と日の光が降り注ぐお外に何か異変が起こっていないか、確認します。
「余所見しない!」
すかさず我が子を叱咤する意地悪お母さん。
「いいお話があるの、米屋のとこのお妙ちゃん、貰い手探してるって言うから、あんた貰いなさい」
「んな簡単に……そもそもお妙ちゃんって誰だよ?」
「これから知ればいいの」
「嫁なんていらねぇ」
「一生独り身でいるつもりッ?」
「違ぇよッ俺にはなぁ……ッ」
俺には化けもん狐の……妖狐の……九がいる。
ほっとけねぇ狐が……。
そんなときに。
ざわ、ざわ、ついさっきまで何ら変わりなかったお外から聞こえてきたざわめき。
なんでしょう。
意地悪親子はほぼ一緒のタイミングでそちらに目を向けます。
開かれた障子の向こう。
明るい日の光を体いっぱいに浴びて、ゆっくり、ゆっくり、やってくるものが。
揺らめく雪色の長い髪。
白い白い肌が纏うは涼しげな花模様の単衣に繊細な織りの格子柄の帯。
鼻緒が華やかなちりめん刺繍の草履。
この世のものとは思えぬような別嬪娘です。
見かけた村人たちはもう釘付け、ふらふら、後を追うほどです。
まるで花の精じみた別嬪娘に意地悪お兄さんも、ぽぉ、です。
ですが。
ゆっくり、ゆっくり、こちらへ近づいてくるにつれて「ん?」「あれ?」「おい」「まさか」と変化していく表情。
そうして意地悪お兄さんの元へ到着した別嬪娘。
薄紅に色づいた唇をふわり、綻ばせます。
「お前様、そちらは母上様で……?」
別嬪娘の正体は九でした。
九九に話を聞くなり裂肉歯を剥き出しにて洞穴から突進しようとした化けもん狐、子ぎつねは慌ててそんな親ぎつねを必死になって止め、経緯をちゃんと説明してあげました。
「母上様、わたくし、ここの、と、申します」
恭しく板間に両手の先を添えて深々と頭を下げた、女体化、九。
「ま、まぁ! あんたなんで言わないのよ!?」
「えっ?」
「こぉんなステキな人がいるなんて、いつからっ、いつからなのよ!?」
「あーー……えーー……」
「はっきりしないわね!祝言よ!祝言上げるわよ!こっんなバカ息子にこっんな器量よしの嫁が……ううッ!」
意地悪お兄さんは急な展開についていけません。
やってきた村人たちからは拍手され、その中にいた優男お兄さんと幼女風男子の九九からも祝福されて、感極まった母親は泣き出して。
呆然と突っ立っていた意地悪お兄さんの腕にするりと絡みついてきた九。
今までなかった膨らみが肘に……あ、意地悪お兄さん、ドキドキしています、ドキドキが止まらない模様です。
「こ、九」
「お前様、わたくし、幸せでございます」
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