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そうしてあれよあれよという間に婚礼儀式。
夕焼け小焼けで日が暮れて花嫁行列。
蛍も飛び交い美しき白無垢に祝いの燈火。
綿帽子から覗く艶やかな紅の唇に誰もが酔い痴れて。
「うまく化けたもんだな」
「俺らの片タマ奪っときながらなぁ、白々しいっつーか」
「まぁ、もう生えてきて現役バリバリだけどな」
化け狸一族の末裔たちも見物客に紛れて仇なる妖狐を今日の日ばかりは祝って……どうも振る舞われる酒目当て、心から祝う気はからっきしないようです。
優男お兄さんにつれられてやってきた九九は淋しがるどころか、うっとり、親ぎつねのしっとりしとやかな姿に見惚れています。
一方、肝心の婿なる意地悪お兄さん、それはそれは器量よしな白無垢嫁を隣にして始終カチンコチンです。
意地悪両親兄弟姉妹親戚一同に囲まれる中、隣でずっとお行儀よく澄ましている九にドキドキし続けていました。
しかしながら意地悪お兄さんが婿気分でいられたのも束の間のことでした。
「お前様、目出度き初夜、たっぷり可愛がってくださいませ……?」
夜も更けた頃、意地悪お兄さんと二人きりになった九は。
鈴の音のように玲瓏たる響きだった声を青年の声へ。
悩ましげな曲線を描いていた体は白装束の下で柔らか味をすっかりそぎ落として。
「わたくしはお前様だけのもの」
綿帽子をとれば別嬪娘から妖しげ綺麗な美丈夫へ。
「も、戻っちまったのかよ、九」
露骨にしょんぼり、がっかりしている意地悪お兄さんです。
「そのな、一回くらい記念として、思い出として、」
「おなごの僕を抱いてみたかった?」
布団上であぐらをかいていた意地悪お兄さんに、男の姿になっても白無垢が映える九、ほんのり朱色に縁取られた切れ長な目許に別嬪娘の名残ある色香を翳してひっそり笑います。
「僕はおなごの君を抱いてみたいね」
布団にゆっくり押し倒された意地悪お兄さんは赤面します。
乱れる紋付袴に跨る白無垢。
傍目には滑稽な図です。
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