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9-親ぎつね嫁お披露目コンコン意地悪お兄さんイラァ……!?
雪化粧が施されていたはずの山に春の兆し。
降り積もった雪は緩やかに溶けて新しい息吹が芽生え始める季節。
澄み渡る青空へ伸びたか細い枝にポツポツと咲き誇る鮮やかな紅梅、清廉なる白梅。
「クシュン!」
とは言ってもまだまだ寒いです、日陰には溶け残った雪がちらほら、川の水はキンキンに冷えています。
「クソ寒ぃなぁ、雪見酒はもう飽きたし、早いとこ花見酒でしっぽりやりてぇ」
あったかとっくり服に冬用作務衣、首には巻物ぐるぐる、そして半纏をしっかり着込んだ着膨れ意地悪お兄さん、か細い枝にずらりと連なる紅梅白梅を見上げて春の陽気を恋しがります。
そこは人里より離れた山の奥の奥。
意地悪お兄さんの頭にぴょこんと生えた狐の獣耳を見咎める者など誰もいやぁしません。
「きゅるるん」
意地悪お兄さんの背後から何やら可愛らしい鳴き声が。
鬱蒼と生い茂る草むらを掻き分けて、ぴょっこん、テラカワイイ幼女風男子の九九が顔を出しました。
「お、ぶりっこ狐」
意地悪お兄さんの旦那様であるあやかし狐・九の息子である九九はぶるぶるっと頭を振り、ぶくぶくに着膨れした意地悪お兄さんの元へぴょこぴょこやってきました。
「久し振りだな、アイツとはうまくやってんのか」
「だんな様とはらぶらぶでしゅ。お前は相変わらずとと様にお尻を貫かれる日々でしゅか」
「うるせぇ!」
花柄振り袖に袴、足袋に草履を履いた九九は不恰好な意地悪お兄さんの周りを一周し、これみよがしにため息をつきます。
「はあ~~~~~」
殺気すら感じられるため息に思わず後ずさる意地悪お兄さん。
腰に両手を当てた九九は呆れたように言うのです。
「ぼくら物の怪らを束ねる一族の当主様、緋目乃 様のところへ、まさかその恰好で行くつもりでしゅか」
そうなのです。
今夜、意地悪お兄さんは人ならずあやかしを代々取り仕切っているという、やんごとなき人物の元へ紹介されに行く予定なのです。
「それなんだけどよ、まさか気に入らなかったらバクリ、とかねぇだろぉな」
「あるかもでしゅ」
「あやかしの当主って、すげぇおっかねぇ響きなんだが、実際どうなんだよ?」
「怒らせたら禍が起こるでしゅ」
九九の返答に意地悪お兄さんはフゥ、と軽くため息をついて、言いました。
「俺、パス」
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