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もちろんパスなど許されませんでした。
「ひーーーーッ!!寒ぃぃぃぃッ!!」
川岸にぼてぼて脱がされた意地悪お兄さんの厚着一式。
ふんどし一丁でキンキンに冷えた川に浸からされて唇は真っ青、始終ガタガタブルブルしながら悲鳴を上げる意地悪お兄さんに、岩の上に腰かけた九九はニコニコご満悦です。
「こンのドS狐!!てッめぇ親父の九より腹黒いんじゃねぇのか!?」
「緋目乃様に正式に会うんでしゅ。その小汚い体、清めないといけないでしゅ」
「小汚くて悪かったな!!」
現在、九はお披露目のアポをとりつけるため、件の一族が棲み暮らす異界へ行っておりました。
九九は代わりに意地悪お兄さんの支度を任されたわけです。
「うおおおお、やべぇ、全く感覚ねぇぞ、俺に手足ちゃんとついてるか?」
「大袈裟でしゅ」
やっとこさ禊を終えて川岸に上がった意地悪お兄さんが厚着を纏おうとすれば。
「こっち着ろでしゅ」
ちっちゃな懐からずるぅり服一式を取り出してみせた九九。
自分自身までキンキンに冷やされてガチガチ歯を慣らす意地悪お兄さん、頭が回らず、言われた通りに服を着ます。
そうして着終わってみてからやっと気づくのです。
「……おい、これは」
「巫女さんでしゅ」
「……なんで男の俺が巫女さんの服着なくちゃならねぇんだよ」
「そういう決まりなんでしゅ」
あやかし界にも色々と掟があるようです。
「緋目乃様の前では奥床しくお上品に慎ましく、つまり普段のお前と正反対でいろでしゅ。機嫌を損ねようものならバクリ、でしゅ」
「クソ……どんな奴なんだよ、そのひめのって奴ぁ」
慣れない巫女衣装に獣耳を逆立てている意地悪お兄さんの背後で九九はこっそり笑いました。
「一度、会ってるでしゅよ、きゅるん」
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