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九は夕闇を従えて意地悪お兄さんの元へ戻ってきました。 戻ってくるなり、藁葺き屋根のおうちでお行儀悪く胡坐をかいていた巫女さん意地悪お兄さんの姿に、見目麗しく切れ長な双眸を愛しさでいっぱいにしました。 「すごく似合ってる」 「似合ってねぇ」 「食べちゃいたい」 「お前が言うと冗談に聞こえねぇ」 カラスが余所に知られることない巣へ帰ろうかな、寄り道しようかな、誰そ彼、人とあやかしの境界線が曖昧になる夜の出入り口。 普段はサラリと流している雪色の長い髪を一つに束ね、袷着物姿に長羽織の九は意地悪お兄さんに白き手を差し伸べます。 「おいで、僕のお嫁さん」 意地悪お兄さんはあやかし伴侶の手をとりました。 誰かが見た夢のように艶やか立派な屋敷。 あちらこちらに精巧なる飾り細工やら金箔やら漆やらが施された豪華絢爛なる大座敷。 「お……?お?お?」 意地悪お兄さん、目が点になっています。 そりゃあそうでしょう、九の手をとった次の瞬間、まさかの瞬間移動、この世とあの世の繋ぎ目なる異界にいつの間にやら降り立っていたのですから。 延々と広がる宵闇に佇むあやかし屋敷、その中心で当主の彼は意地悪お兄さんのことを待っていました。 「こんばんは」 両脇に般若の面をつけて武装した配下の猛者を従えた緋目乃(ひめの)。 妖花の如き美貌を持った、緋色の目をした世にも蠱惑的な当主に意地悪お兄さんはポカン、します。 コイツがあやかしの当主なのかよ? なんかエロそうなガキだな。 「見ろよ、古狐が意地悪男、連れてきてるぜ」 「狐耳が生えてらぁ」 「キノコみてぇにニョキニョキ生えてきたか?」 障子の向こう、縁側から年若い狸衆が盃片手に盗み見してします。 九を目の上のタンコブ扱いして度々ちょっかいを出してくる化け狸一族の末裔です。 「お前等、相当暇してんだな」 「「「うるせぇ~」」」 通常運転に戻った意地悪お兄さんと狸衆のやり取りに緋目乃はクスクス笑います。 こうしてみるとどこぞの高僧の稚児さんのようです。

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