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ぬくぬく囲炉裏のそばでゴロリしていた意地悪お兄さんはぎょっとしました。
九の息子である九九以外、誰も訪れたことがない我が家に届いた呼び声に、ちょっと肝を冷やしました。
な、なんだぁ、こんなとこに誰が来たっつぅんだ? 宗教の勧誘にしては山奥過ぎんだろ?
「あ」
女の声だったが、あれか、生意気な九九が俺のこと騙そうとしてんだな。
「ごめんください」
フン、あのぶりっこカマトトこぎつねが、そうそう騙されねぇぞ!
がばりと起き上がった意地悪お兄さん、ドタバタとやかましい足音を立てて板間を横切り、引き戸をガラガラガラガラッ! これまた騒々しく開くなり、開口一番「こンのドS狐! アイツにお前の腹黒本性ばらすぞ、九九!!」とドヤ顔で言ってやりました。
すっかり夜に浸ったお山の片隅に。
暗闇を弾くような、神々しい、白。
意地悪お兄さんは九九だと、そう思いながらも、見惚れてしまいます。
この世のものとは思えぬ別嬪娘。
いいえ、娘というより、女。
括れた腰を過ぎるほどに長い髪、ほっそり長い五指。
匂い立つような色香を迸らせる芳醇な瞳に唇。
そして、ぼいんぼいん。
薄い着物姿がひどく悩ましげな、理想のボンキュッボン、です。
九九の奴、どこでこんな破廉恥化け学覚えてきやがった。
「あの子が腹黒?」
ん?
「愛らしい装いで多くの者がころっと騙されるというのに。貴方様はよくぞおわかりに」
ん?ん?ん?
「えーーーと? お前九九だろ?」
「まぁ」
別嬪女は口元を袖で隠すと優美に笑いました。
「申し遅れました。わたくし、夜叉小町、雪鬼女でございます」
『かつてのお前の伴侶、島国一の美しさと謳われた夜叉小町とは似ても似つかぬ』
意地悪お兄さんは口あんぐり、九の元嫁、雪鬼女 の夜叉小町 を前にして見事な棒立ちになったのでした。
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