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長いこと軟禁されていた九の腕の中から久し振りに解放された意地悪お兄さん狐。
「なかなか人間の姿に戻らねぇからって。四六時中俺のこと抱き回しやがって」
思いっきり背伸びをし、降り頻る雨の中を駆け回ります。
落ち葉の浮かんだ水溜りを跳ね、大木の周りをぐるぐる一周、笹の葉が流れる小川のそばを突っ走っては飛び越えたり、岩場を駆け上ったり。
久し振りに得た自由を全身で満喫しているようです。
百の恋に目覚めているとはいえ、相手の九が抱えているのは千の愛。
バランスがとれていません。
時には別々の時間も必要、そんな現代っこ夫婦的な考えも、なきにしもあらず、のようです。
梅雨が到来してからというもの、延々とおうちに閉じ籠もって雨を疎む伴侶に巻き込まれて、外出禁止状態にあった意地悪お兄さん狐、いつにもましてストレスが溜まっておりました。
あいつのこたぁ嫌いじゃねぇが。
やっぱりたまに重てぇ。
独り善がりな押し売り愛情にぶっ潰されそうになる。
最近、狸どもとも呑んでねぇし。
『あの古狐、相っ当な嫉妬魔なんだなぁ』
『今度お前と酒盛りしたら玉袋全没収だとかほざきやがった』
『あいつ玉袋掻っ攫うの得意だからな~おっかねぇおっかねぇ』
這虫って奴とも賭け事やってねぇ。
『オレはきゃんきゃんうるさい犬っころの次にツンと澄ましたお稲荷さんとどうにもこうにもお馬さんが合わなくってねぇ』
九九や馴染みの奴とも会ってねぇ。
『ブス狐、だんな様と一杯ご相伴に預からせてやるでちゅ』
『三日月を肴にしようか。帰りが遅くならなければ九九の父君も大目に見てくれるだろう』
ぜーんぜん、うるせぇの何の、帰るなり「お酒の匂いがする」なんて不機嫌そうに言ったかと思えば……毛づくろいの嵐だ。
これがいわゆる束縛ってやつか。
つぅか前よりひどくなってねぇか。
「別に淋しくなんかねぇけどよ」
そう一人ごちつつもみんなと会って飲んだり騒いだりしたい意地悪お兄さん狐なのでした。
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