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止む気配のない雨。
開放感を満喫する余り九の言いつけも忘れて人里近くまで降りてきた意地悪お兄さん狐。
瑞々しく咲き誇る紫陽花たちに無邪気にじゃれつきます。
花弁にたまっていた雨の雫を弾いてみたり、匂いをかいだり。
「お」
カタツムリを見つけると早速ちょっかいを出します。
「つの出せ、やり出せ、頭出せ」
前脚でちょいちょい、無視を決め込むカタツムリ相手にムキになっています、しょうもないです。
雨降りとは言え浮かれて山を駆け回り、少々の疲れもあって、カタツムリに夢中になっていたこともあって。
意地悪お兄さん狐は全く気がつきませんでした。
冷たく恐ろしいソレに狙われていることに。
ばん!!!!
雨音だけが響いていた薄暗い昼下がりに突如響いた銃声。
びっくりした意地悪お兄さん狐は咄嗟に振り返ります、しかしどこから狙われたのか全く見当がつかず、急な発砲に竦み上がってどうしたものかと混乱しておりましたら、
ばん!!!!
「ひっ」
意地悪お兄さん狐は蹲りました。
幸い命中してはいなかったものの、自分が的になっているという恐怖に縮み上がって走れそうにありません、情けない話、腰が抜けてしまいました。
やべぇ、あの不憫極まりねぇことで有名なゴンの二の舞になるとかありえねぇ、でも体が動かねぇ……!!
がさ……がさ……
鉄砲玉が命中したと思った村人が猟銃を掲げて茂みから姿を現しました、マジでガチでやばいです、意地悪お兄さん狐、かつてない大ピンチ……!!
かと思いきや。
「ギシャァァァァァァァア!!!!!!!」
実はずーーーーーーーっと意地悪お兄さん狐の後をつけていたあやかし伴侶、九、登場。
凶暴なる化けもん狐の姿で立ち竦む村人に猛然と襲いかかり、
「九!!!!」
怒り狂っていた九に届いた切羽詰まった呼号。
「食うな!!絶対殺すな!!いいな!?」
鋭い牙がずらりと並ぶ残酷おくちをガパァと開いて正に噛みつく寸前だった九は、ギリギリのところで一時停止、ぐるりと振り返って地面に突っ伏している意地悪お兄さん狐を見やりました。
「俺は平気だから……見逃してやってくれよ……」
いつにもまして殺気立っていたはずの九は失神した村人を放置して愛しい伴侶の元へ。
御自慢の毛並みを雨に満遍なく濡らし、泥で汚れた意地悪お兄さん狐をそっと咥えて。
我が家を目指し、無数の雫を煌めかせ、空からの恩恵に潤う山を走り抜けました……。
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