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「人間を食べたくなったりしない?」
意地悪お兄さんが目をひん剥かせると九は「ごめんね。冗談だよ」と微笑み交じりに詫びました。
あやかしジョーク、つまんねぇよ、わかりづれぇよ、怖ぇよ。
「身も心も極端にあやかし化するわけじゃないから」
「ほんとかよ?」
「寿命が人間の倍の倍の倍になるだけだよ」
「それだけでもう立派な化けもんじゃねぇか」
言った後、何だか胸がモヤモヤしてきて「悪ぃ」と、今度は意地悪お兄さんが侘びました。
九は全く気にせずに「きなこもあるよ」とお皿を差し出します。
囲炉裏でパチパチと爆ぜる火。
たまに風に押されてガタガタ鳴る板戸。
「里が恋しい?」
九の問いかけに意地悪お兄さんは思います。
知らず知らずのうちに、あの怒涛の同衾で妙な妖怪成分をうつされていたことは気に入らなかった。
一言くらい教えてくれりゃあよかったんだ。
いきなりこんな耳が生えてくるまで黙ってやがったなんて性格ひん曲がり過ぎだろ、この狐。
でも俺は生まれ育った里を離れてこいつの元へやってきた。
この狐が、九がそばにいてくれるんなら、俺は……。
「僕がいればそれで十分だよね?」
「ッ……うるせぇぞ、図に乗んじゃねぇ、助平狐が」
「コンコン」
袷着物姿の九は餅を食べている意地悪お兄さんの隣にそっと寄り添いました。
「甘いのがココについてるよ」
頬にくっついていたきなこを舐めとられて意地悪お兄さんはボフッと赤面します。
「おい、九……俺、餅食ってんだろ、今」
「お餅を食べながらでも僕に抱かれることはできるよね?」
「ッ……やめろ! 餅くらい落ち着いて食わせろ!」
嫌がる意地悪お兄さんを背後からするりと抱きしめた九、あったかくしている伴侶に頬擦りしつつ囁きかけます。
「僕と君はめおとになったばかりなんだから。たっぷり営まないとね」
「はぁ?」
「今は君が僕のお嫁さん」
どうもそのつもり満々のようです、まだ餅を頬張っている意地悪お兄さんの狐耳を甘噛みしたり、腹を撫でてきたり、放す気は皆無のようです。
「お、おい……俺にも限界ってモンがあんだよ。平気で一夜越すとか、あれやめろ、尻が馬鹿になんだよ!!」
切実なお願いを述べた意地悪お兄さんでしたがあえなく却下されました。
意地悪お兄さんを嫁として手に入れた、その喜びで浮かれ続けている九は、それはもう前にもまして……滾るようになってしまっていたのです……。
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