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妖しげ綺麗な美丈夫姿の九はあやかしらにとっても特別な存在のようで。 「九様だわ」 「相も変わらずお美しい」 「髪の毛一本でもいい、尻尾の抜け毛でも構わないわ、頂けないかしら……」 長い髪を靡かせて道の真ん中を堂々と行く九に惚れ惚れするあやかし娘ら。 当然、冬仕様あったか作務衣やらパッチワーク柄の半纏やらで着膨れした連れにも目がいくわけで。 「なぁに、あれ、獣耳つきなのに人間くさい」 「九様の本日の夕餉かしら」 「それにしては柔らか味もなくってマズそう」 「マズそうで悪かったな!!」 耳に入った会話にブチギレてご丁寧に言い返す意地悪お兄さんを九は窘めます。 「おやめ、余所にとってマズそうなのは確かなんだから」 灰色の狐耳をピーンと立てた意地悪お兄さんは磨きのかかった仏頂面に。 しっかしすげぇところに来ちまったな。 今までに会ったあやかし連中、九九とか、狸どもとか、這虫や緋目乃サマ。 だいたい人の姿をしていた。 ここにいる連中の半数は、うん、ゲテモノ寄りだ。 まだまだ人間くさいらしいが、こんな場所に来ちまうと、もう普通の人間じゃあないってことを思い知らされるな……。 少々おせんちになった意地悪お兄さんは九に大人しく手を引かれていましたが。 不意に足を止めました。 昔っから自分を惹きつけてやまない賭け事の気配を感じ取ったようです。 「おい、イカサマすんじゃねーぞ!」 「お前とお前組んでんじゃないのか!?」 「変な小細工使ってんじゃねーだろな!?」 「見苦しいよぉ、ぽんぽこさんら、潔く負けを認めなくっちゃあねぇ」 道端で繰り広げられている野外麻雀、しかも面子の半数は顔見知りのあやかしでした。 「あいつら、狸に這虫じゃねぇか、へぇ~~、なぁ、九、」 「道草はお断りだからね」 ピシャリと断言した九は意地悪お兄さんの手を引いて先を急ぎます。 「ちぇっ、ケチ」 「到着するなり彼奴らに出くわすなんて、それだけでも縁起が悪い、寄り道なんてもっての外」 ただの手繋ぎが、恋人繋ぎへと変わって、賭け事に後ろ髪引かれていた意地悪お兄さんはどきっとしました。 「君の美味しさを知るのは僕ひとりで結構」 「は……?」 「今宵はどこまでもふたりきりで温泉を愉しむんだからね」 完成された美しさを持ちながら少年じみたワガママを振り翳す狐夫に意地悪お兄さんはタジタジです。 ですが。 縁起が悪い、それはあながち間違っちゃあいませんでした。 さすがの九も、この先に待ち受ける衝撃的展開の凶兆を察することはできませんでした……。

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