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どどどどどどどどっと心地よく響き渡る湯の音色。
「どどどどっ、どういうことだよ、これは!!??」
初対面のあやかしと共に露天風呂に渋々入っていた意地悪お兄さんは度肝を抜かれました。
「兄者っ……何百年振りの真のお姿であろう……!」
冷徹そうだった蒼色の彼は感極まって涙を流します。
緑色した濁り湯から鍛え抜かれた肉体を惜し気もなく披露してみせます。
「兄様……ずっと待っておりました……」
朱色の彼は湯を弾く艶めかしい肌を震わせ、懐いたのか魅了されたのか、寄ってくるぼんぼりの薄明かりを浴びて、やはり感極まります。
だだっ広い東屋風の岩風呂。
立ち込める湯煙の間に見え隠れする意地悪お兄さんの引き攣った顔。
呆気にとられている意地悪お兄さんに覆いかぶさるように迫る何か。
『おい、こいつ一緒に風呂入れて大丈夫なのかよ?』
『問題ありませんよ』
意地悪お兄さんは当然のこと、長身である朱色と蒼色の彼を上回る、その馬鹿でかい図体。
そりゃあ、そうでしょう、だってそれはどう見ても。
「グルァァァァァア゛」
虎です。
通常の虎を何倍も大きくしたような巨大虎です。
しっとり濡れ渡ったこがね色の縞々毛並み。
宵闇に映えて光り輝いています。
金色の眼も、恐ろしく鋭い牙も、並々ならぬ迫力に漲っています。
け……毛玉が虎になりやがった……。
化けもん狐にしょっちゅうのしかかられている意地悪お兄さんでも怖気づくド迫力です、スペクタクルです。
その上。
さらに意地悪お兄さんをビビらせる事態が発生しました。
「「グァァァァァァア゛ッッ」」
「ひぇッ……そ、そうだよな、兄弟ならお前らだってそうなるワケだよな、チクショー……!」
朱色と蒼色の彼も虎化したのです。
何百年も前に自分達を庇って退魔師の祈祷をもろに喰らい、力を封じられ、退化していた長男。
それぞれ特徴的な色味を残した毛を濡れ光らせ、真の姿を取り戻した家族との再会に、はしゃぎます。
ばっしゃーーーーん!!
「あぢッ、ひっ、人の上でじゃれつくな、重てぇ!!」
このままでは押し潰されると危ぶんだ意地悪お兄さん、必死こいて露天風呂から逃げ出しました。
ろくに拭きもしていない体に服を引っ掛け、からくり宿を逃げ回ります。
「こ……ッ九、九ッ、九ぉーーーー……ッッ!!!!」
「呼んだ?」
なんと。
あやかし伴侶を心の底から探し求めた意地悪お兄さんの前に九は忽然と現れました。
「君の想いの丈の未熟さがよーくわかったよ……?」
怒れる狐夫に、意地悪お兄さん、今日一番の恐怖を覚えるのでした。
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