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「兄弟を連れてきてくれてどうもありがとうございます」
「……きょうだい?」
「兄弟の意味も知らぬのか」
上から目線な蒼色の彼に冷たく言われて、意地悪お兄さん、かっちーん。
「別に連れてきたんじゃねぇ、フン、おら、返してやらぁ」
九とはぐれ、心細くって必死こいてついてきたくせに、意地悪お兄さんは偉そうに言い返して毛玉もどきを朱色の彼へ差し出そうとしました。
ところが。
毛玉もどきは意地悪お兄さんの半纏の内側へ、ぬくぬく懐へ潜り込んでしまいました。
「兄様に懐かれたようですね」
こっちの毛玉が兄かよ。
「貴方はこの宿へよくいらっしゃるので?」
宵闇を揺蕩う数多のぼんぼりが朱色の彼の元へふわふわ集まります。
「……今日が初だ」
世にも優しい灯火に浮かび上がる、世にも甘やかな声色を奏でる朱色の彼。
「ここは巡り愛の宿」
「へっ?」
意地悪お兄さんを一切憚らずに背後から無表情でじゃれついてくる蒼色の彼の頭を撫で、朱色の彼は、問いかけます。
「兄様は貴方を探していたのかもしれません。貴方、呪いを解く運命の相手では?」
自己完結語りやめろ、初対面の俺にもわかるよう話しやがれ。
「兄者、人間なのか狐なのかあやかしなのか、よくわからん半端者に凄腕退魔師の呪いが解けるものか」
お前弟か、確かに体格はでけぇけど明らかにワガママ末っ子タイプだもんな。
つぅか、あやかしだからって兄弟同士でぶっちゅぶっちゅすんじゃねぇ。
「どうでしょう、一緒に湯浴みしません?」
なんでそうなる!!!!
「いや、俺、連れがいるしよ……はぐれちまったけど」
「この場所で巡り会えないなんて不思議な話」
「……どういう意味だ?」
「さっきから図々しい愚かな輩だ、兄者、喰ってもいいか」
「ふみゅーーー!」
意地悪お兄さんの懐から威嚇した毛玉もどき。
それまでの上から態度が嘘であったかのように蒼色の彼は罰が悪そうに口を噤み、朱色の彼は微笑みます。
「きっとこれは絶対なる縁。貴方に断ち切る術はありません」
あ。
大人しそうに見える方が怖ぇパターンだ。
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