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「ッ……おい、お前どこにいんだ!! お前のせいで九とはぐれただろうがッ、もっとはっきり何してほしいか具体的に言いやがれ!!」 傍から見ればご乱心な意地悪お兄さん、からくりお宿の片隅でぎゃんぎゃん喚きました。 すると。 <こっち> 「こっちってどこだ!?」 <障子のうら> 「障子ってどこの障子だッ、ごまんとあんだよッ、もっとまともな情報伝えろ!!」 正体不明の声と会話を始めた意地悪お兄さんは四方の障子を手当たり次第放ちます。 中はやっぱりもぬけの殻のがらんどう。 意地悪お兄さんは手応えのなさにだんだんイライラしてきました。 「そもそもッ、こんな変なところに連れてきた九が悪ぃッ、何が一番のお宿だッ、変態宿じゃねぇかッ、こんな妙ちくりんな場所で迷うくらいなら賭け麻雀したかった!!」 <あはは> 「ッ、あははじゃねぇッ……」 すっぱーーーーん、いくつめかもわからない障子を勢い任せに開け放った意地悪お兄さん。 長廊下を照らす行燈の火が畳に伸びて。 すぐ真正面にいたソレを照らし出しました。 「け……毛玉……」 意地悪お兄さんは疲弊しきった両手でソレを拾い上げます。 「ふみゅ」 鳴く毛玉、ではございません。 それはそれはちっちゃな、毛玉のような、仔猫っぽい、ものです。 両手におさまるほどの小ささ。 ふわっふわ、もっふもふ、です。 おめめは、まぁるく、くりんくりん。 全体的にこがね色の毛玉、ではありませんでした、お耳も尻尾もついている仔猫っぽいものは意地悪お兄さんの手の上で寝返りをうちました。 「くそかわいッ……」 じゃねぇ。 これ、あれだな、あやかしだな。 「こんなかわいいあやかしもいるんだな」 「ふみゅ」 「ふみゅ、じゃねぇ、お前が俺を呼んだんだろ?」 「ふみゅ」 何故か先程まで聞こえていた呼び声はぱたりと止んで。 毛玉もどきは「ふみゅふみゅ」鳴くばかり。 九は戻らず、無数の気配はあるのに自分達以外誰も何もいない長廊下で、意地悪お兄さんは苦笑しました。 「参ったな、どうすっか、お前に連れはいねぇのかよ?」 問いかければ毛玉もどきは意地悪お兄さんの手の上から、ぴょんっ、長廊下に着地すると、とことこ歩き出しました。 藁ならぬ毛糸にも縋る思いで意地悪お兄さんは毛玉もどきの後をぴったり追いかけます……。

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