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「怖がらせてごめん」
畳にあぐらをかいた意地悪お兄さんは呆気にとられたように彼を見上げました。
パツキンです。
故郷はともかく町でも見かけたことがない、異人さんみたいなパツキンです。
アシンメトリー風の極端な斜め前下がり髪は長め、シャレています。
九の雪色で長い髪とはまた違った雰囲気がありました。
どでかい朱と琥珀をやや上回る長身で。
二人よりも幼く見える顔立ち。
きりっとした太眉、吸い込まれそうな大きな金色の目、キュッと上がった口角、スパイシーな男っぽさとキュンな甘さを絶妙なバランスで共存させています。
膝丈の七分袖カンフー服とお揃いのズボンは夜の色。
中にはV字型のネックラインに雷紋が施された薄いシャツを着ています。
「二人が怖いから。怖がって座り込んでる」
「べ、別に怖がってなんかいねぇ」
「おれはね、黄金、どうぞよろしく」
呆気にとられ続けている意地悪お兄さんを、ひょいっ、黄金は両手をとって引っ張り上げました。
「あなたにずっとお礼が言いたかった」
満面の笑顔を向けられて意地悪お兄さんはたじろぎます。
こいつ本当にあの二人の兄貴なのか、むしろ弟じゃねぇのか、つぅか血ぃ繋がってんのか、めちゃくちゃいい奴っぽいぞ。
「おれを助けてくれてどうもありがとう」
うお……キラキラしてて眩し……。
「後は似るなり焼くなり、お好きなように」
いつの間に黄金の背後に現れた緋目乃が事も無げに言いますと。
むっとした意地悪お兄さんが言い返す前に黄金はきっぱり言いました。
「そんな怖いこと大切な恩人に絶対しない」
……元毛玉の割にはしっかりしてるじゃねぇか。
「それに、レンタル嫁とか……娶る、とか? そういうつもりじゃなくて、おれはただ……あの温泉郷でちょっとのんびり一緒に過ごせたらなぁって……」
明らかに照れている美男子妖虎の黄金。
どーしてこんなイケメンが温泉郷で自分とのんびり過ごしたいのか、てんで理解できない意地悪お兄さん。
「本当、思慮深くて美しくてキュートな兄様」
「兄者、兄者、兄者……」
……ブラコンにも程がねぇか、この虎ども。
「まぁ、最初は勝手に話進められて気に食わなかったけどよ。温泉郷でちょっとのんびりするくらいなら全然構わねぇよ」
「ほんと?」
いきなり間近に顔を覗き込まれて意地悪お兄さんは思わず尻込みします。
「嬉しい。よかった。嬉しい」
きらっきらな黄金はやたら鋭い八重歯を覗かせて照れ笑いを浮かべました。
多くの女子を虜にしそうな、にゃんともあまーーーーい極上スマイルに意地悪お兄さんもついつい照れてしまいます。
「いや、その、まぁ、うん」
まるで借りてきた猫みたいです。
相手は虎ですが。
「あーーーー……温泉って、やっぱココだったんだな……」
魑魅魍魎、異類異形の百鬼夜行。
このよのものならざるものらが跋扈する世にも不思議な温泉街。
違法建築ばりの複雑構造をした、あやかしすら惑わせる、奇天烈からくり宿に連れてこられた意地悪お兄さんでしたが。
「ひ、ぃ、ぃ……」
こがね色の縞々毛並みが雄々しい、恐ろしく鋭い牙を持った巨大虎に真上に迫られて、カチンコチンに凍りつく羽目に……。
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