91 / 125
18-節分番外編-鬼は外、きつねはうち!!
「ほんとうにごめんなさい」
目の前ではらはら泣き出した黄金に意地悪お兄さんはびっくり仰天しました。
そこは意地悪お兄さんが暮らす藁葺き屋根のおうちの板間でした。
『ごめんください』
いきなり黄金がおうちへやってきた時点で驚いていた意地悪お兄さんでしたが。
あやかし温泉郷での出来事を改めて詫びにきて、ふと、じっと見つめてきたかと思えば、吸い込まれそうな大きな金色の目から、はら、はらり、涙を溢れさせた黄金に慌てふためきました。
「おい、どうした、腹でも痛ぇのかよ?」
「ううん、痛くない」
「つぅかよ、お前は何にも悪いことしてねぇだろ? 悪いのはてめぇの性悪弟二匹と緋目乃だろーが。上から目線で高飛車で意識高い系で」
「あはは……」
ここにいない弟らをこき下ろされた黄金は笑いながら涙します。
意地悪お兄さんは珍しく困ってしまいます。
「一体何なんだよ、わけわかんねぇ野郎だな」
鈍感にも程がある意地悪お兄さん、現在進行形で黄金がどれだけ自分に想いを寄せているか、レンタル嫁にされた身の割に、あんまりわかっていないようです。
「そもそも、あんま覚えてねぇんだよ、みょうちくりんな風呂に入った後のこと」
居心地が悪そうに頭やら狐耳をバリバリ掻いて、どっとため息をつくと、意地悪お兄さんは真正面ではらりはらり涙している黄金にぐっと近づきました。
「あ~も~、面倒くせぇなぁ、とっとと泣きやめ!」
今度は黄金がびっくりする番でした。
泣いていたら暴言を吐かれて、パツキン頭をわしゃわしゃ撫でられて、あんまり経験がないイイコイイコに……滑々した頬をかあっと熱くさせました。
「お前ほんとに長男かよ? わけわかんねぇタイミングでめそめそしやがって」
意地悪お兄さんは大人しくしている黄金の頭を笑いながらわしゃわしゃし続けます、まるでいたずらっこのようです……いいえ、ただの生意気ないじめっこみたいです、ただの意地悪です。
「それでも虎かぁ? 最初温泉で見たときはビビったけど、どうってことねぇな」
わしゃわしゃされて、きもちよくって、夢心地になって。
黄金は巨大あやかし虎の姿と化しました。
「うお」
猛々しい巨大虎を間近にした瞬間、さすがにヒヤリとした意地悪お兄さんでしたが、グルグル唸りながら擦り寄られると「うん、猫だ、こいつは猫」と自分自身に暗示をかけてスキンシップを受け入れました。
いつになくテンションが上がった黄金は意地悪お兄さんを板間に押し倒します。
グルグルグルグル、延々と唸りながら顔にすーりすーり、急所となる首筋をぱくぱく甘噛みします。
「ひっ、おい、本気で噛むんじゃねぇぞっ? ッ、ひ、ぃ……くすぐってぇ……!」
縞々毛並みが美しい金色の巨体をくねらせ、熱烈なスキンシップに猛然と励む黄金に意地悪お兄さんは腹を捩じらせてヒィヒィ笑っていましたが。
「君って淫乱にも程があるね」
それまで自分の背後で恐ろしく沈黙していた九が口を開いたかと思えば、とんだ罵り言葉を投げつけてきて、しかめっ面となりました。
「はぁ? なんだよ、淫乱って?」
自覚ナシ、しかもまだ黄金の熱烈スキンシップに甘んじている意地悪お兄さんに九はブチギレ寸前です。
「うはぁ、んな舐めんじゃねぇよ、黄金」
ハイテンションの余り、ついつい黄金は意地悪お兄さんの頬をべろべろ、意地悪お兄さんは嫌がるどころかゲラゲラ笑って悶絶しています。
そんなわけで。
九はブチギレちゃいました。
「兄様、おかえりなさ、ッ、顔が真っ赤です、まさか狐めに引っ叩かれて!?」
「兄者兄者兄者兄者……!」
長期滞在しているからくり宿へ戻ってきた、どこかしら様子がおかしな長男に次男と末っ子はこぞって駆け寄ります。
顔がまっかっかな黄金は無言で首を左右に振りました。
まぁ、要は、見せつけられちゃったわけです。
九と意地悪お兄さん、ふたりの営みってやつを。
「……」
ぽんやり上の空の黄金に朱と琥珀は不安そうに顔を見合わせます。
見せつけられて、断ち切られるどころか、びゅんびゅん加速してしまった、なかなかに図太い恋心なのでした。
「お前……お前が性悪一等賞だ……この助平狐が……」
「どのお口が戯言を言っているのかな、このお口かな、どれ、塞いでしまおうね」
「んぶぶぶぶ……!」
黄金を帰した後も九は意地悪お兄さんを手放そうとしませんでした。
板間に敷いたお布団の上、着流しを色っぽく乱し、汗びっしょりな素っ裸の意地悪お兄さんに構いっぱなしでした。
「夫の前で他のものに抱かれるなんて、なんて罪作りなひと」
主に腰がくたびれた意地悪お兄さんはぎょっとします。
「おい、そりゃあ語弊あんだろ……抱かれるって、あんなん、ただのスキンシップの一種じゃねぇか」
「随分と恐ろしいことを言うね。僕に立ててくれた操はどこへ行ったの。君にとっての浮気の定義ってガバガバなの」
「ガバガバ言うなッ」
「まぁ、コッチは狂おしいくらいキツク締まっているけれど……?」
「ッ……い、い加減……ッ……抜けッ……あッ、おい……ッ……ッ……!」
「今日は節分なんだって」
「はーーーッ……はーーーッ……とりあえず、俺んナカから、今すぐ出てけ……」
「僕が外? 夫の僕を邪気扱いするの? 意地悪鬼さん?」
「う、は……っ……だからッ……もぉッ……うううう……!」
「僕達は豆まきの代わりに種まきしようか」
「は?」
「僕の種を君のお腹に。そうだね。君の年齢と同じ回数、プラス一回、種まきしようね」
「お前何言ってんだ?」
「僕の種、しっかり食べてね、僕のお嫁さん……?」
嫉妬魔の狐夫に抱きすくめられた意地悪お兄さん。
『君は僕だけのもの、君のすべてが僕のすべて』
あんまり覚えてないと言ってはいましたが、本当は、ちゃっかり記憶していました。
まんまと化かされて気に食わない、そんな腹立たしい気持ちもありましたが、あやかし伴侶と添い遂げる自信をちょこっと身につけていました……。
「どう? 僕の種、おいしい?」
「も……もぉ……満腹超えて……しぬ……」
「次は僕の年齢とプラス一回、豆代わりに君を性的に食べさせてね?」
「やめろ本気でしぬ!!!!」
内 にいすぎる狐の種まき、鬼の代わりに外へ逃げ出したい意地悪お兄さんなのでした。
ともだちにシェアしよう!