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俺が身籠る。
やっぱりピンとこねぇ。
「ピンとこねぇまんまで励むのもなんか違うだろ」
作務衣姿で板間にゴロリと横になった意地悪お兄さん。
九は出かけていました。
行き先は聞いていません。
「……はぁ……」
九がいない今でも、あれだけの絶頂を強いられても、懲りずに疼く体。
相も変わらず下半身がローション風呂に浸かっているような心地に意地悪お兄さんは思い切り眉根を寄せます。
「そもそも、いきなり過ぎンだろ……せめて一つくらい兆しがありゃあ……」
ブツクサ独り言、開きっぱなしの障子の間に覗く夕方のお外を睨みました。
あかんぼう、か。
兄弟姉妹がいた意地悪お兄さん、下のこどもたちの面倒を見ていた時期もありました。
「俺んとこはみんな性格悪くてダチがいねぇもんだから、兄弟姉妹同士でよく遊んだっけ」
今はもう会うことが叶わない家族を思い出し、ちょっと笑います。
俺はたくさん捨てた。
そして九を選んだ。
「最初は俺がアイツを娶ったのにな……」
蛍にも祝福された花嫁行列を思い出すと苦笑いが浮かんできました。
そんな九との間にこどもができる……。
一体全体、どんなこどもが……まさかガチで狐がコンコン生まれてくるんじゃあ……。
「そういや九九がいるじゃねぇか」
九の息子の九九。
今は意地悪お兄さんの唯一の旧知の仲である優男お兄さんと一緒に暮らしています。
いいえ、人間である彼はもう「優男おじさま」になっていました。
「九九なぁ……」
カマトトかわいこぶっている九九のことを日頃よりいけ好かないとディスっている意地悪お兄さん。
狐のくせに猫かぶり、俺には当たりが強ぇ、完っ全に下に見てやがる、やっぱりいけ好かねぇ。
きゅるん、きゅるるん、うるせぇ。
狐になった俺のこと「ブス狐」呼ばわりだしな、ほんっとう、いけ好かねぇ子ぎつね。
でもまぁ、うん、可愛くねぇこともねぇ。
何せ母親は雪鬼女の夜叉小町っていう、ぼいんぼいんの別嬪あやかしだ、ある意味ハイブリッドだよな。
優男に一途なところも悪くねぇよ。
人間のアイツがくたばるまで添い遂げるつもりなんて、なかなか骨のある奴じゃねぇか。
「俺のこどもはどんな風に育つんだろう」
俺と九のこども。
俺と九の……。
「……」
いつもと変わらない景色が広がる障子の向こう、意地悪お兄さんは淡い幻を見ます。
灰色狐耳の生えたこどもが飛んで跳ねて過 ぎる白昼夢を。
「そうだな、贅沢言わねぇ、元気に育ってくれりゃあいっか」
九は言ってたっけ。
『僕と君のあかちゃん、それはそれは可愛い小狐だろうね?』
柄にもなく浮かれていた狐。
なーんの迷いもなく喜んでたな。
『君は嬉しくないの? 僕とのあかちゃん、ほしくないの……?』
嫌なわけじゃねぇ。
ほしくないわけじゃねぇよ。
暴走するみたいに一心不乱にお前を求める頭と体に心がついていかなかったんだよ。
「腹決めて向き合わねぇとな」
俺だってお前と添い遂げる覚悟はできてる。
お前なら……いいよ、俺は。
だから早く帰ってこいよ、九……。
「ーーごめんください」
突然、障子の間にひょいっと顔を覗かせた客人に意地悪お兄さんは目を見張らせました。
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