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客人というか、客虎といいますか。
「黄金 か……」
「こんにちは。また遊びにきたよ」
大陸で名の知れている妖虎三兄弟の長男・黄金 の訪問に意地悪お兄さんは立ち上がるでもなく、板間に不躾に寝そべったまま「また来たのかよ……暇虎め……」と呟きました。
「どうしたの? 具合が悪い?」
「あー……風邪引いてんだよ、はーくしょんっ……ほらな」
「ほんと? 大丈夫?」
西日にキラキラ光り輝くパツキン。
アシンメトリーな斜め前下がり髪がシャレています。
スパイシーな男っぽさとキュンな甘さを両立させているお顔は、そりゃあもう、片恋相手の意地悪お兄さんを前にして純粋な喜びに満ち溢れていました。
そーなのです、以前、九に公開同衾を見せつけられたにもかかわらず、黄金は意地悪お兄さん相手に未だに図太い恋心を宿しているのです。
狐夫が居留守のときにちゃっかり遊びにやってくる、天然ずるがしこいちゃんなのです。
「お薬ある? おれが調達してこようか?」
縁側から話しかけてくる黄金に意地悪お兄さんは「いらねぇ、そもそもテメェの性悪弟二匹に借りなんざ作りたくねぇ」と言い放ちました。
素っ気ない返事に黄金はへこたれず。
「朱と琥珀には頼まないよ。おれが自分で調達してくるよ」
夜色のカンフー服を着た黄金の邪気のない目映いオーラに意地悪お兄さんはどっちらけ。
「どうせ緋目乃に頼むんだろうが……あのパワハラモラハラ当主にも借りなんざ作りたくねぇ」
代々、物の怪らを束ねる一族の当主・緋目乃の文句を言えば、これまた笑顔で首を左右にフリフリ。
……虎っていうより犬みたいだよな、コイツ。
「茶の一杯でも出してやっから、飲んだら帰れよな……」
気怠くってしゃーない意地悪お兄さん、しぶしぶ立ち上がろうとしました。
しかし立ち眩みがして、フラリ、板間に倒れ込みそうにーー
「あ……?」
意地悪お兄さんが倒れ込んだ先は冷たい板間ではなく、あったかくて頑丈な胸板でした。
「わ、悪ぃ、黄金……」
……コイツ、着痩せするタイプかよ……。
縁側から俊敏におうちの中へ、倒れそうになった自分を受け止めて支えてくれた黄金に意地悪お兄さんは一先ずお礼を述べます。
「やっぱ、れっきとした虎だな、お前……生意気に胸筋発達させやがって……」
「……クンクン」
「ッ……おい、俺の匂い嗅ぐな」
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