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「クンクン、クンクン、クンクン」
注意しても匂いをしつこく嗅いでくる、自分を抱いたままでいる長身の黄金を睨めあげましたならば。
「あなたは、今、孕期 なの?」
瑞々しい両頬に縞模様を浮かび上がらせ、八重歯をやたら鋭く尖らせ、息を荒くして。
美男子妖虎の黄金は明らかに興奮している様子でした。
「お、おい……」
「クンクンクンクン!」
「うわっ、鼻先押しつけんな! くすぐってぇ……!」
首筋に顔を突っ込んで好奇心全開クンクンしてきた黄金に意地悪お兄さんはヒィヒィします。
ち、違ぇ、ヒィヒィしてる場合じゃねぇ。
「いい匂い」
黄金はぎゅうっと意地悪お兄さんを抱きしめました。
「このまま持って帰りたい」
「おい、黄金、そんなことしたらもう二度とウチに上げねぇぞ」
「やだ」
「じゃあ今すぐ離せ」
「うん」
そう返事をしておきながら。
「おいしそうな匂い」
黄金は意地悪お兄さんをその場に押し倒しました。
「おい、一口でもかじったら鼻っ柱へし折るぞ」
「グルル」
人型でグルグル鳴いた黄金。
未練たらったら、行き場のない片想いが溢れて溢れて、なかなか離れることができません。
しかも孕期に突入した意地悪お兄さんからは、本能を煽る危うい香りがしていて、それはもう欲しくて欲しくて、喉から手が出るほどに欲しくって。
「グルルルル」
「お前なぁ……」
からくり宿の片隅で「ふみゅふみゅ」鳴いていた毛玉もどきの彼をはっきり覚えているからでしょうか。
べらぼうに年上である黄金に対して父性とも母性とも区別のつかない感情が湧いてくる意地悪お兄さん。
邪険にできずにパツキン頭をポンポン撫でてやります。
「頼むよ、退いてくれよ、黄金、なぁ?」
そんな投げ遣りな優しさが黄金の片恋を増長させます。
こんなときこそ意地悪につれなくするべきだというのに、全くもって中途半端で困った鈍感意地悪お兄さんです。
「これって、ひょっとしてーー」
意地悪お兄さん、はっとしました。
自分に覆い被さる黄金の向こうに帰宅した九を見つけ、激ヤバな予感にビシバシ打ちひしがれました……。
「不貞の現場というやつなのかな……?」
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