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「うわああああ!! やめろやめろ、お前らぁ!! ウチぶっ壊す気か!!」
大慌ての意地悪お兄さんは咄嗟に両腕を広げました。
「やめろ、九!!!!」
化けもん狐の姿と化した激オコ九の前に立ち塞がり、何となく九につられて巨大虎の姿になった黄金を庇います。
「三行半突きつけんぞ!!??」
眼光鋭い切れ長な大きな目がくわっと見開かれました。
「ッ……とにかく攻撃するんじゃねぇ、熱くなりすぎだぞ、テメェ……」
巨大あやかしの間で灰色狐耳をピンと立て、一生懸命、修羅場を回避しようとする意地悪お兄さん。
一方で、意地悪お兄さんに庇われ中の黄金はその背中に頭をごりごり押しつけ、無邪気にじゃれついています。
「うわっ、やめろ、黄金……お前はとっとと帰れよ、お前がいると九が一向に落ち着かねぇ」
「うん」
瞬く間に人型になった黄金は、自分を庇ってくれた意地悪お兄さんににっこり笑いかけました。
おうちの主である九は蚊帳の外と言わんばかりにスルーして「また遊びにきてもいい?」なーんて呑気に尋ねています、困った天然ちゃんです。
「来てもいいから今は帰れ!」
「うん」
返事をもらった黄金は眩い笑顔のまま、どろん、その場から消えていなくなりました。
さーて、で、怒れる旦那様はどーしたもんか……。
「うお」
九の方へ向き直ろうとし、すぐ真正面まで接近していたあやかし姿の狐夫に意地悪お兄さんはちょっとたじろぎます。
息が荒いです。
切れ長な目は血走っています、まだまだ余裕で激オコ中のようです。
「おい、九……黄金はいつもみたいにじゃれてきただけだろうが……」
眼球を走る血管がさらに増えました、不穏です、おっかないです。
「なんだよ!? 古狐のクセして短気な奴!! テメェ年上だろ!? 年甲斐もなくアイツをいじめてんじゃねぇよ!!」
意地悪お兄さんは見た目や雰囲気で判断しているようですが、九と黄金、年齢はそう変わりません。
退魔師に力を封じられて何百年も毛玉もどきでいたために、黄金の言動はちょこっと幼いところがあるのです。
永生きする余り、どちらも正確な年齢はわからず、どちらが年上なのかはイマイチはっきりしませんが……。
「ギシャアアァァアア……」
黄金がいなくなっても怒りはおさまらず、牙まで剥いて迫ってくる九に、意地悪お兄さんは灰色狐耳をぶわわわわっと膨らませました。
「九、いい加減にーー」
ばくんっっっ!!!!
……え?
……俺、九に喰われた?
薄暗くなった意地悪お兄さんの視界。
もちろん食べられたわけじゃあ、ありません。
食べられる寸前といいますか。
あやかし伴侶にガブリとかぶりつかれて、上半身、そのお口に頬張られている状態でした。
「……」
牙は立てられていません。
ただ、べろんべろん、舐められまくりました。
「…………」
下手をすれば丸呑みにされかねない状況ですが。
意地悪お兄さんは不思議と怖くありませんでした。
かつて狐になったときにも経験がありましたし。
狐夫のお口の中で、ただただ、じっとしていました。
……ぬるぬるしてて、あったかくて、妙な居心地だ。
……そりゃあ、かぶりつかれてイイ気分じゃねぇのは確かだけどよ。
「俺って、そんなにうまいのかよ、九?」
意地悪お兄さんの半分をガブリしていた九、お口の中で聞こえた問いかけに瞬き一つ、膨張尻尾をブォンと一振り。
そして、とうとう、一思いに……口を離しました。
「うわ」
現れたるは頭っからどろどろヨダレ塗れの世にも悲惨な有り様になった意地悪お兄さん。
無言で恨めしそうにしていれば人型になって上品に口許を拭った九は言います。
「僕も君にじゃれついただけだよ」
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