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風もないのに靡く雪色の長い髪。
夕日に透けて、まるでチリチリと燃えているような。
「主のいない家に上がり込んで妻にのしかかるなんて不届き千万。大陸出の猛虎が聞いて呆れる」
一先ず顔面を手拭いでごしごし拭って視界をクリアにし、意地悪お兄さんが文句をぶつけようとすれば。
「報告に行っていたんだよ、緋目乃の元へ、こづくりに専念したいから寄合はしばらく欠席するとの旨を伝えにね」
すらすらと外出の理由を述べ、文句をぶつけるタイミングを逃した意地悪お兄さんを見据えます。
「もう一度、いや二度三度、虎の前で抱いてあげればよかったかな」
「ふざけんな」
「ふざけているのは君の方」
自分のヨダレでべしょべしょになっている意地悪お兄さんに、ちょっとだけ苛立ちを軽くして、でもまだ尾を引く怒りに従って九は言います。
「今の君を他のあやかしに、いや、僕以外の全てのものに見られるのも虫唾が走る、我が子の九九にだって見せたくない」
嫉妬魔あやかしの本音は止まりません。
「先に虎に奪われていたなら、どうしていたか」
「は? 黄金 に何を奪われるって?」
「……君ったら、危機感がまるで足りないね、孕期の君はオスを惹きつける匂いを放っているんだよ、それにあの虎はただでさえ君にホの字でいるからね、油断も隙もない」
美丈夫の九は薄紅の唇を薄情そうに歪めて残酷な独占欲を明け透けに。
「君のこと、口の中に閉じ込めていられたらいいのにね」
絹糸の如き長い髪をさらりと舞わせてそっぽを向いた狐夫。
「狐より虎の方がいいのかい」
「は?」
「頭を撫でていたじゃないか」
一体、この狐夫はヤキモチをいくつ焼くつもりなのでしょう……?
「……ぶふっ」
嫉妬の炎が揺らめいて爛々としていた九の眼が不意に波打ちました。
「何だよ、お前、そんなことで怒り狂ってたのかよ?」
意地悪お兄さんはべしょべしょのばっちぃ手で九の頭を撫でました。
「あーあ、汚れてやんの、でもまぁお前のヨダレだし、俺をバックリいったお前が悪い、俺は何一つだって悪くねぇからな、九サンよぉ?」
意地悪で偉そうな嫁に笑って馬鹿にされた九は。
「君ってやつは……」
自分のヨダレでどろどろの意地悪お兄さんを掻き抱きました。
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