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五十年経っても子ぎつねの姿でだんな様に甘える九九、甘やかす優男イケ爺さん、相も変わらずらぶらぶな模様です。 「……胸やけしてきたわ」 「蜜柑で胸やけかい」 「もう行く、じゃあな」 「まだ雪が降っているから傘を持っていくといい」 「いらねぇよ、面倒くせぇ」 「また返しにおいで。いつでもいい。九九と待っているよ」 「フン、仕方ねぇなぁ、じゃあ借りてってやらぁ」 優男イケ爺さんと、その膝の上できゅるきゅるしている九九に別れを告げて。 意地悪お兄さんはいつまで経っても新婚ムードなマイホーム民家を後にしました。 「ふぅ……あいつら甘ったるくて胸やけがひでぇ……口直しに蕎麦屋で酒でも飲んでくか」 番傘を差して雪の降る中へ踏み出そうとしましたら。 「あら、丁度いい」 「!?」 いきなり傘の中に入ってきた人物にぎょっとした意地悪お兄さん。 「あんたは……夜叉小町……」 九の元嫁、九九の母親である雪鬼女(ゆきおんな)夜叉小町(やしゃこまち)は、呆気にとられている意地悪お兄さんにするりと腕を絡ませます。 「ご相伴にあずからせてくださいな」 「おい……九九に用があって来たんじゃねぇのかよ?」 出てきたばかりの出入り口を指差せば夜叉小町は言います。 「そうね、でもいつまでも新婚さんムードな二人のお邪魔になりそうだし、今日は遠慮しておくわ」 「俺は思いっきり邪魔してきたけどな」 「さぁさ、行きましょう」 「勘弁してくれよ、あんたと一緒にいると九が……」 艶やかな着物に裏地つきの羽織を纏って、魅惑のボンキュッボンは隠されていましたが、それでもお色気むんむん、道行く男たちの視線を独り占めしている夜叉小町。 「あらまぁ。嫁入りして半世紀が過ぎたというのに、まだまだ(あれ)の祟りが怖いのね」 ほっそり長い五指で狐をコンコンかたどってみせた夜叉小町の挑発に意地悪お兄さんは。 「祟りなんざ怖くねぇ、いいぞ、連れてってやる」 まんまと乗せられました。 「ただし折半だかんな」 「あらまぁ」 蕎麦屋は雪見酒目的の客で大賑わいでした。 「見ろよ、今入ってきた女、すンげぇ美人」 「あれれ? 雪鬼女の小町サマじゃねーの?」 「一度でいいから踏んづけられてみたい!」 なんとまぁ、年若い化け狸一族の末裔トリオがすみっこの卓で盛り上がっているじゃあありませんか。 「連れの男はふつーだな」 「どっかで見たことあるよーな」 「あれだ、あれ、高慢ちき古狐に嫁入りしたインチキイカサマ野郎だ」 「誰がインチキイカサマ野郎だ! イカサマ常習犯はお前らだろうが!」 意地悪お兄さんは賭けごと仲間である狸らの元へ、湯気が漂う天ぷら蕎麦や酒の並ぶ卓に着席しようとしたのですが。 「お酌して差し上げますわ」 「「「ひゃっほう!!」」」 別嬪あやかしなる夜叉小町にぽんぽこデレデレ、これでもかと鼻の下を伸ばす狸らに興が削がれてテンションだだ下がり、入ったばかりの蕎麦屋を出ることにしました。 「もう行かれるの。相合い傘、それはとても楽しかったわ」 「ほらよ、そば湯くらい飲んでけ」 「上から目線のだんな狐によろしく、なーんて嘘八百、一生よろしくしませーん」 「いつか古狐負かすコンコン」 夜叉小町はともかく、狸共にまで狐の手真似でからかわれて立腹するかと思いきや。 意地悪お兄さんは堂々と言って退けます。 「負かしてみろよ、気長に待ってるぜ、今世どころか来世でも来来世でも来来来世でも無理な話だろうがな」

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